後日の人々@

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副会長の別荘での一件があった翌日。
私――汐崎祐一は、ある決意を持って家を出た。

あの日、地下室に囚われていた私たちは、思いも掛けない人物――事務の三島さんに助けられた。

そして彼に連れられて1階の部屋に行くと、そこには神尾美加が1人で座り込んでおり、更にその隣の部屋には、何と源川会長が私たちを待っていた。

副会長や、その部下の姿はどこにも見当たらず、私の頭は混乱するばかりだったが、会長自らが事の顛末を説明してくれた。

しかし、その話の途中で往来会本部が全焼したことを知り…その中に真奈美が居た、という事を聞いた時点で、私はショックの余り、気を失ってしまったのだった。

…そして気が付いたのが、今から数時間前。場所は自宅。
既に夜も明け、時刻は昼過ぎになっていた。

目を覚ました私のすぐ傍には、三島さんからの手紙があり、その中で、彼が私をここまで届けてくれたことと…真奈美が無事であることを知った。

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そして、丁度手紙を読み終わる頃に、真奈美が帰宅。

私達は思わず抱き合って喜び…不覚にも、娘の前で涙を流してしまった。
真奈美がわんわんと泣くので、貰い泣きだ。うん。

それから、真奈美は私が居なくなってからの事を教えてくれた。
それは私にとって、衝撃的な話だった。

古い友人である牧村陸が既に亡くなっていた、ということもそうだが…それ以上に、本部長のことにショックを受ける。

彼女が、真奈美のためにしてくれたこと。
その全てを知った私は、言葉を失う。

心の底から謝りたい。
それ以上に、感謝したい。

そう思って、私は真奈美と共に家を出た。

行き先は――本部長が入院している病院だ。

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病院までの道のりで、私は三島さんの手紙のことを考える。

あの手紙には、本部の火事跡からは1体の焼死体――藤木徹の死体が見つかった、と書いてあった。
しかし、遺体の詳細についての報道はまだされていない。家を出るときのニュースでは、身元は不明と言っていた。

三島さんは何故、死体の身元を知っているのだろう…?と思ったが、私は、その点については深く考えないことにした。
私は元々そんな性格だし、相手はあの三島さんだ。
会長と繋がりがあることが分かったので、きっとそこから得た情報だろう、と思うことにした。

そして、目的の病院に着く。

真奈美「お父さん、ちょっと…」
すると真奈美が、持ってきたお見舞いの花を抱えながら、私をジロジロと見てくる。

私「どうした?まだ何か…変か?」

今日は仕事でも何でもないので、スーツではなく、普段着だ。
それも、家を出る前に真奈美にあれこれと厳しいチェックを受け、納得するまで何度も着替えさせられ、やっと決まった服だ。

真奈美「うーん…まぁ、大事なのは中身よね」

うんうん、と1人で頷きながら言うと、真奈美はさっさと病院に入っていってしまう。
何のことやらだか…やけに楽しそうだな。

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本部長の病室は、3階だった。
真奈美は本部から救出され、怪我や異常が無いか検査を受けた後も、ずっとこの病院に…本部長と一緒に居たらしい。
でも一度家に帰るように言われ、そこで私と会い、また戻ってきた、という訳だ。

真奈美「ここ、ここ。沙織さんの部屋、個室なんだよー」

私より先行して廊下を走って行き、1つの病室の前で立ち止まる真奈美。
そういえば…真奈美は、本部長の事を下の名前で呼んでいる。
ほんの数日でそこまで親しくなったのかと、驚いてしまう。

真奈美「沙織さーん、ただいま〜」
そう言いながら、部屋に入る真奈美。

高城「…おかえりなさい、真奈美ちゃん」

部屋の中から、本部長の声が聞こえてくる。
病院でただいま、おかえり、とはねぇ…と思いながら、私も真奈美に続いて部屋に入る。

火事から救出されたので、それはそれは痛々しい姿を予想していたが、ベッドで半身を起こしている本部長は、左手に包帯を巻いているだけだった。
その姿を見て、私は心の底から安堵する。

私「本部長、この度は――」
そしてすぐに、準備してきた挨拶をしようとする。
が――

高城「あ、祐一さん…」

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私「…はい?」

高城「…あ」
突然、真っ赤になって顔を伏せる本部長。

…何だ?
いきなり下の名前で呼ばれたぞ…?

私「あ、あの…」
何を言おうとしていたか、頭から綺麗サッパリ抜けてしまい、言葉を失う。
謝るのだっけ?お礼を言うのだっけ…?

真奈美「お花、ここに飾っておくねー」

固まってしまった大人2人を尻目に、真奈美がちゃっちゃと花を飾る。
そして、「それじゃ、後はよろしくー」と言い残し、止める間もなく部屋を出て行ってしまう。

最後にこっそり、「私はOKだからね」と、謎の耳打ちをしてから。

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真奈美が出て行き、急に部屋の空気が変わってしまった。

まずは落ち着いて深呼吸をし、まだ真っ赤になって下を向いている本部長に、声を掛ける。

私「あ…あの、本部長…」
高城「…」
私がそう呼ぶと、本部長は何か意味ありげな目でこちらをジッと見てから、プイとソッポを向いてしまう。

その仕草で、私はとてつもなく重大な”可能性”に気付く。
この私が、自他共に認める鈍感さを持つ私が、気付いたのだ。
何しろここ数日間、私はずっと本部長のことを考えていた。…いろいろな意味で。
そして今、ほんの一瞬だが目で会話をしてしまい、そこからとんでもない言葉が伝わってきた…ような気がした。

だがしかし、待て。
これが勘違いだったら…かなり恥ずかしい事になるぞ?
いい歳したオジサンが、何言っているの?歳の差ってものを考えなさいよって事になる。

ここは慎重に…と思い、改めて彼女を見る。
そこには、命を掛けて真奈美を守ってくれた本部長が居る。
真っ赤になって、拗ねるように俯いて――…あれ、こんな人だったっけ?

…何だか、慎重になんて、言ってられなくなってきた。
私は男として…今、勝負を掛ける時が来たのじゃないか?真奈美はOKなのだ。

私はありったけの勇気を振り絞り、真奈美と同じように、彼女の名前を呼ぶ。

すると彼女は顔を上げ、今までに見たことの無い笑顔を見せてくれた――。

7/16
――
「それで、往来会は解散ってことか」

神尾さんの家。
毎度女の子の部屋に集まるってのは、どうかとも思うが…ここがすっかり俺達4人のたまり場になっている。

そこで神尾さんの口から、彼女が昨日体験したことが語られた。
神尾さん自身、何故霊感を求めていたか、という理由についても含めて。

昔の彼氏の話もあったので、北上は複雑な顔をしていたが…
何年も前のことだし、こいつはそういうことを気にする男ではない。…確かそうだ。

神尾「うん。源川さんはそうするって。それで、また新しい会を開くみたい」

会を開くって言うと、なんだかお楽しみ会みたいに聞こえる。

神尾「今度は前の本部長…高城さんを中心に、往来会に居た人を集めるって言っていたわ」
北上「ほぉ…」

まぁそうしないと、突然の解散で仕事を失った人が可哀想か。
それに、元々そのつもりだったような感じもする。

8/16
古乃羽「あのさ」
神尾「んー?」
古乃羽「その…源川さんが言っていた”あの方”って、やっぱり…舞さんのことかな?」
神尾「うーん…確認はしてないけど、多分、そうだと思う」

往来会の会長、源川さん。
その名前は俺も知っていた。あの小女――優理ちゃんの母親の旧姓だ。
その人と姉貴は、何か関係があるみたいだが…詳しい事は神尾さんも知らなかった。

古乃羽「舞さん、どうしているのかなぁ…」

心配そうに呟く古乃羽。
…ここは、早く話しておくかな。

俺「あー…後でと思ったけど、姉貴のことでちょっと」
神尾「何?」
古乃羽「連絡あった?」
いい喰いつきだ。

俺「連絡というか…昨日の夜に電話が掛かってきて、1つお願い事をされてさ」
古乃羽「どんなこと?」

俺「簡単なことだったよ。今からすぐに、往来会の本部前に行って…ブザーが聞こえたら、「中に人が居るんじゃないか?」って叫んで欲しい、ってさ」

後日の人々Aへ続く
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