後日の人々A

9/16
――
立派に務めを果たした雨月君と、今回、ほとんど何もしなかった北上が帰った後…

私は、古乃羽からお説教をされていた。

古乃羽「――いい?今度勝手なことしたら、ほんとに許さないからね?」
私「はい…反省しております…」

ラット君を抱きながら正座をし、小さくなる私。
こんなとき、ラット君はちっとも私を守ってくれない。
流石の彼も、古乃羽の雷は怖いとみえる。

古乃羽「ハァ…もう、いくら言っても言い足りないわ」
お茶を飲みながら、母親のような事を言う古乃羽。

私「あの、少しご休憩を…肩でもお揉みしましょうか?」
古乃羽「ム…」
私「あ、冗談です…」
古乃羽「ん、もう…」
ため息混じりに、呆れた声を出す古乃羽。

10/16
古乃羽「ところでさ」
私「ん?…あ、はい?」
古乃羽「もう普通で良いってば。あのさ、桐谷さんってどうするのかな」
私「どうって…」

あの別荘で会長さんを交えて会ったとき、彼は自分の境遇…壷を求めた理由を、私に教えてくれた。
その内容は、古乃羽たちにも伝えてある。

私「私に「ありがとう」って言ってくれて…これからお兄さんのお墓に報告に行って、後はそれから、って言っていたけど?」

古乃羽「そうじゃなくて、舞さんと何か…とか」
私「舞さん?…あぁ」
古乃羽は、2人の仲を疑っているわけだ。

桐谷さんの話では、壷のことで兄を訪ねて来た舞さんとは面識があり、兄が亡くなった後でも、何度か相談をしていたらしいけど…

私「古乃羽が考えているようなことは、無いと思うよ?」
残念ながらそれだけの仲です。と、桐谷さんは言っていた。
そこには、特に深い意味もなさそうだった。

古乃羽「そっかぁ…」
何故か安堵の表情の古乃羽。

舞さんも大変ねぇ、と、私は毎度のごとく思うのだった。

11/16
――
都会から少し離れた、郊外にある家。
今は私が1人で暮らしている、源川の家。

三島さんに送ってもらってから、私は居間で1人…間もなく来るであろう訪問者を待ちながら、物思いに耽る。

約20年前…
妹の容子と、その息子の暁彦が、壷の呪いを受けた。

容子は倒れ、暁彦は…壊れてしまった。

私は容子のお見舞いに行ったとき、それが呪いによるものだと悟った。
しかし、当時壷の事を知らなかった私は、必死でその原因を調べたけど何も分からず、そのまま容子は亡くなってしまった。
それが悔しかった私は、その後も諦めずに、寺坂さんから数多くの骨董品を引き取り、それらを1つ1つ調べていった。

…それを手伝ってくれたのが、夏目川だった。

その頃私は、夏目川と一緒に暮らしていた。
…結婚はしていなかったけど、私達は”そういった関係”だったから。
彼は難しい人ではあったけれど、私には優しくしてくれた。
私が喜ぶであろうことを、何でもしてくれた。

しかし――

私より先に壷の秘密を知った彼は、変わってしまった。

12/16
彼は、壷の秘密を私に隠したまま、往来会を設立。
私が容子の調査に没頭している間に、会は瞬く間に大きくなっていき…
私が壷の秘密に辿り着く頃には、取り返しの付かないところまできていた。

私は当然の事ながら、すぐに壷の破壊を試みた。
容子の仇…寺坂家の幸せを奪った元凶である、その壷を。

…でも、出来なかった。

それを目にしたとき…私には壊せないと、すぐに分かった。
私の中の霊感が、それを完全に拒絶した。
憎しみを持ってそれと対峙してしまった私は、一瞬のうちに魅入られてしまった。

壷を壊せないと悟った私は、これ以上それを使わせないための行動に出た。
それはつまり…夏目川を止めることだった。

しかし、まともな方法ではどうにもならないことは、明らかだった。
何しろ、彼の周囲には不気味な部下が沢山いる。一方こちらは、年老いた女が1人。
散々悩んだ末、まずは往来会をどうにかしようと決め、私は高城沙織を見い出した。

彼女は私の期待以上に成長し、本部長の地位にまで登り詰めてくれた。
…でも、それでも夏目川は――往来会は、止められそうになかった。

そしてそんな時、私の前に、舞が現れた。

13/16
…家のチャイムが鳴る。

来たみたいだ。

私はその場で何もせず、その場でしばらく待つ。
彼女には、家に鍵は掛けていないから、いつでも入ってきて良いと言ってある。
それでも律儀にチャイムを鳴らし、時間を置いてから彼女は入ってくる。

舞「こんにちは、恵子さん」
私「こんにちは、舞さん。無事でよかった…」

そう言うと、彼女はニコリと笑う。
強い人…。私の想像も付かない程に。

私「高城のこと、ありがとう」
舞「いえ…お約束したことですから」

桐谷達夫の遺体が見つかる数日前、舞が壷について私の元を訪ねてきたとき…私は私の知る限り、全てのことを彼女に話した。

そして、高城沙織を守って欲しいとお願いをした。
決して夏目川に悟られぬよう、影から…。

14/16
舞「でも、危険な状態でした。死相が見えるくらい…。もしあそこで高城さんが諦めていたら、私は間に合わなかったかも知れません」
私「そのときは、私の責任ですよ」

彼女がもし、大切な感情を失ってしまっていたら…それは、私のせいだ。
彼女を夏目川に対抗させるため、本部長にするため、私は帝王学に近い教育を、彼女に受けさせた。
そのせいで彼女は孤立し、この私との間に、変な…女同士なのに、本当に変な噂まで流れてしまった。

それが常に気掛かりではあったけれど、汐崎祐一との出会い、そしてその娘の真奈美との出会いで、彼女は変わってくれた。
…いや、元の気質を取り戻してくれた。

彼女はきっと、幸せになる。
決して諦めず、自分の手で掴み取ったものだから。

舞「それで…恵子さんは、この後…?」
舞が聞いてくる。
それが気になったから、ここに来てくれたのかも知れない。

私「そうねぇ…。これでも一応会長でしたから…色々と忙しいことになるでしょうね」

これから、面倒な後処理が待っているだろう。
今までそういった事は、全て夏目川がやってくれていた。
良くも悪くも、彼が。

ずっと昔から、私のことは全て…

15/16
舞「…夏目川さんのことは、残念でした」
舞が、私の心を読んだかのように言う。

私「仕方無いわ。彼は、完全に虜になっていたから…」

彼はきっと、気付いていなかっただろう。
自分が、壷を使っているのではなく、壷に使われていた、ということに。
己自身もまた、それに呪われ…支配されていたことに。

私は、彼にそれを気付かせてあげることができず、私自身もまた、あれを一目見ただけで支配されてしまった。

そんな力を持っていた、あの壷。
それを破壊するなんてことは、きっと舞にしかできない…
私はそう思っていたけれど、彼女は他にもそれができるであろう人を教えてくれた。

それが神尾美加であり、あの子は見事にそれを成してくれた。

彼女には、優理の事も含め、本当に感謝しないといけない。
機会があったら、もっとお話をしたいな、と思う。

16/16
私「舞さんの方は、これからどうするのかしら?」
私は彼女に聞き返す。
私「今は、静まったのでしょう?」
舞「はい。とりあえず、今は…」

彼女の持っているもの。
彼女が、抱えているもの。

それは、あの壷とは比較にならない程のもの。
彼女はそれを押さえ込みながら…生きている。
私には、その苦しみは想像もできない。

舞「これから、家に帰ろうと思います」
舞が、何故か照れくさそうに言う。
私「そう。それが良いわね」

舞「はい。…きっと、怒られますけど」
私「お母様に?でも、それは――」
舞「いえ…。怒るのは、弟です」
私「あら…」

舞「私、世話の焼ける姉なので」

舞は少し笑いながらそう言うと、また来ます、と言って帰っていく。
私は、彼女のどことなく嬉しそうな様子に安心し、微笑ましい気持ちでそれを見送った――
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