お諏訪さま 中編

367 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:41:39 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 1/12

諏訪湖畔を北上していると、左手に【諏訪湖間欠泉センター】の看板が見えてきた。
教授はそこに入れという。
半円形の近代的な建物は、教授のシュミとしては違和感がありすぎる。
「ここの3Fの展望室は、間欠泉が噴き出すと面白い空間になるよ」
と誘われたけど…。

なんか…今回の旅は、いつもと違う。
教授よりも私が主体になって考えられてるような気がする。



368 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:42:28 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 2/12

展望室はガラス張りの明るい空間になっていた。
一角に小さなお土産屋さんがあって、全体にベンチが置かれている。
建物自体は高くないから、眺望は諏訪湖と温泉街の一角だけ。
でも、冬の風に叩きつけられた青い湖面が靄を漂わせている光景は、幻想的で、いろんな想像力をかきたてられた。

出雲を追われたタケミナカタは、この地でどんな生涯を過ごしたのかな。
下社に祀られた奥さんとは、よっぽど仲がよかったんだろうな。だって、神様になってからも会いに行くぐらいだもの。

窓に張りついて、そんなことを考えていた私は、ふと気づいた。

夫婦の神は、なぜ一緒に上社に祀られなかったのだろう?
毎年、この広い諏訪湖を渡らなくては会えないような配置にされたのは、なぜなの?



369 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:43:11 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 3/12

「教授…」
私は、後ろのベンチで休憩をしていた教授を振り返った。
「タケミナカタは、アマテラスたちに追われて、ここまで来たんだよね?」
いまさら確認をする私に、教授は好奇の目を向けながら、頷く。
「そうだよ。正確に言えば、追ってきたのはアマテラスの配下の軍神で、タケミカヅチという神だけどね」
「じゃあ、そのタケミカヅチは、最後はタケミナカタを…どうしたの?」

そうだよ。
諏訪まで来たら終わり、じゃなかったんだ、タケミナカタの逃避行は。
追っ手は、彼を幽閉ないし殺害して、完全に抵抗を封じるはず。



370 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:44:11 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 4/12

教授は、私の隣まで来て、窓の外の諏訪湖を眺めながら、言った。
「タケミカヅチは当然ながらタケミナカタを葬っただろう。日本神話では【相撲】で負かした、となっているが」
「…」
笑うところなんだろうか(汗)?

でも、笑えない。あえて和やかな話で決着をつけるのは、陰惨な裏事情を隠すためだと、私は、ずっと教授に教わってきたのだから。

「じゃあ、諏訪大社は、殺してしまったタケミナカタの魂を鎮めるために建てられたの?」
祖国の出雲が侵略に屈した後さえ、1人で抵抗を続けていた強靭な精神力を持つタケミナカタ。鎮めるのも大変だっただろうな、と私でも推測できた。
「いや」
教授は首を振った。
「鎮めるためではなく、封じるために造られたんだ。社殿の四隅に【御柱】を立てたのは、タケミナカタの怨霊を中に閉じ込める結界の意味があるんだよ」



371 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:45:28 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 5/12

「御柱(おんばしら)…」
その名前で記憶を辿ってみる。

諏訪大社は、7年に1度、御柱祭りという盛大なお祭りを行う。
山から切り出した樅の大木を、人力で諏訪大社の本宮まで運び入れ、先端を三角錐に削って四方に建てるという神事だ。
勇壮さが売りのこのお祭りの起源は、でも、どこのガイドブックでも見ることができなかった。

「あのお祭りが、タケミナカタから、未だに自由を奪ってるんだ…」
私の言い方に落胆の色が濃かったからか、教授は慌てた様子で訂正した。
「これは僕の推論だよ。事実とは断言できない。信じてもらうのは勝手だけどね」
「…」
私は教授の知識だけでなく、妄想力も信用している。

あとから考えれば、なぜ自分がここまで気鬱になったのか、不思議な限りだ。
このときの私は、タケミナカタ…と、彼につき従って夫婦になった女神が可哀相に思えて仕方がなかったんだ。



372 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:46:47 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 6/12

「下社に祀られた女神、タケミナカタの伴侶は、ヤサカトメと言う」
私が何も聞かないうちに、教授は女神のことを語りだした。
「ヤサカトメは出雲の神じゃない。この諏訪の土地神だ。タケミナカタとは、この地に逃れてから出会ったんだろうね」
神様とはいえ、馴れ初めの話はほほえましい。私は少し笑う。
「タケミナカタが倒されたあと、タケミカヅチは、当然ながらヤサカトメも放ってはおかなかっただろう」
「うん…」
寒気がする。
夫婦を別々に安置したのは、やっぱりタケミカヅチという神なんだろうな。
「ヤサカトメについては、僕もまったくの無知に近い。どのように粛清され、どういう意味で下社に祀られたのか」
教授は淡々と話す。
「まあ、妥当に考えれば、朝廷側にとって、タケミナカタとヤサカトメは、死んでからでも引き離したいほど憎い相手だったんだろう」

突然、館内にアナウンスが流れた。
「ただいまから間欠泉が噴き出します。お近くの方は離れてください」



373 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:47:48 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 7/12

窓越しに地上を見下ろすと、小さな噴出孔から白い煙が上がり始めていた。
「間欠泉って、温泉が地面から噴き上がる現象ですよね」
隣りの教授に尋ねると、教授は楽しそうな顔をして、答える。
「そう。ここの水柱は日本一だね」

アナウンスが何度か繰り返され、屋外の客が避難している様子が見えた。
やがて噴出孔から熱湯が溢れる。
と思ったら、すぐに3Fの窓を飛び越えた。
同時に窓の外が湯気で真っ白に覆われ、展望室は、前後不覚の空間になった。

「…何も見えない」
私は、さっきまでの外の光景の片鱗を見ようと、白い闇に目を凝らした。
「そうでしょう。僕はこの圧迫感が好きなんだ。きっと、結界の中はこんな感じなんだろうね」
教授は悪趣味なことを言う(笑)。
「私には、少し怖い気がします」
この闇が何かを連れてきそうだ。



374 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:49:23 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 8/12

数分で晴れるというので、そのまま窓際で待っていると、かすかに水の音が聞こえた。
湖に何かが落ちたような。
窓ガラスは厚い。それに、湖までは100m以上の距離がある。
聞こえるわけがない。
でも、私の耳に届くそれは、だんだん、はっきりと、人の声すら混じった現実の音になりつつあった。

『しぶといな』
男の野太い声。
『こうやって溺れてると、普通の女のようだ』
嘲笑の混じった別の声。

湯気の幕が薄まって、湖の真ん中が視界に現れる。一艘の小船が湖面に留まっていて、3人の人影が乗り込んでいるのが見えた。
その脇で、激しく水しぶきが上がっている。
もっと目を凝らした。
白装束を着た、黒髪の女性がもがいているのだと、わかった。



375 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:50:38 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 9/12

見えるはずのない光景だと、頭では理解している。
だから教授を呼ばなかった。声も出さなかった。

溺れているのは若い女性のように見えた。
ヤサカトメだ。確信がある。
彼女は、なんとか顔だけを水面から出して、溺死を防いでいる。すぐ真横には船の縁があって容易に手が届くのに、助かろうとしない。
船の男たちも彼女に手を貸そうとしない。むしろ、溺れ死ぬのを待っている。

『叩き殺したほうが早いのに』
『体に傷をつけちゃいけねえんだから、しょうがない』
物騒な会話が船上で交わされる。

ヤサカトメはなかなか沈まなかった。
諏訪生まれの女神は、水に強い性質を持っているのかもしれなかった。
男の1人が業を煮やし、彼女の体を引き上げた。
女神の細い腕は後ろ手に拘束されていた。自分の力で船に這い上がることはできなかったんだ…。
女神の足は、長く長く伸びる白蛇の尾に変化していた。



376 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:51:50 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 10/12

船に上げられた女神は、蛇の尾をくねらせて暴れた。
船は大きく揺れ、男たちが動揺する。
1人が櫓を女神の鳩尾に突き込んだ。女神はグッタリと動かなくなった。

そのとき、ずっと舳先に座って様子を見ていた3人目が、ゆっくりと船内を動き始めた。
体から稲妻が走り、右手は巨きな剣に化けている。
タケミカヅチだ、とわかった。
鬼神は、ヤサカトメの尾に向かって剣を振り下した。
絶叫が聞こえ、女神から半身が切り取られた。
蛇の尾は、それ自体が生き物であるかのように、諏訪湖の底に揺らめきながら消えていく。

タケミカヅチはヤサカトメを湖に放り投げた。
瀕死の女神は、それでも生き延びようと浮き上がったが、頭を押さえつけられて沈められ、断末魔を迎えた。



377 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:55:16 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 11/12

女神の遺体は下社の近くの湖岸に運ばれた。
簡素な祭壇には、供物ではなく、女神自身が乗せられた。
神官のような装束を着た老人が、長く細い、先端の尖った木槍を持って、やって来た。
サイズは小さいけど、写真で見た【御柱】の形にそっくりだ。

神官は女神から服を剥ぎ、切り取られた腿から下の傷口に躊躇することなく股を開き、性器を露出させた。
木槍をあてがい、力を込めて体内に押し入れる。
槍が体内を進むたびに、女神の体が苦しげに蠢いた。もう死んでいるはずなのに…。
神官は、細い喉元を通すときに、ことさらに慎重になった。
槍の切っ先が女神の脳に達すると、辺りから賞賛の声が上がった。

周囲の男たちは、勝ち誇ったように、槍を地面に突き立てた。
地上高く掲げられた女神の哀れな姿は、対岸のタケミナカタからもよく見えただろうね…。



378 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/07(日) 22:55:50 ID:XW2LtUv/0

お諏訪さま 中編 12/12

気がつくと、私は教授の隣りで、ベンチに横になっていた。
教授の話に因ると、外を見ているときに、突然ふらふらとやってきて寝転んだのだという。

「イヤな夢を見ました」
と告げた。
「君にはそういうことがよくあるね。神降ろしの能力を持っているのかもしれない」
と、教授は答えた。
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