お諏訪さま 後編

410 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:14:34 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 1/10

おなか空いた。
あんな光景を見たあとなのに、健康な胃袋だ(汗)。

「蕎麦屋さんに直行していいですか?」
車を発進させながら教授に聞くと、
「もちろんいいよ。それが目的で来たんだから」
と答える。
うーん…。メインの目的は蕎麦じゃなかった、よね?

どうも居心地が悪い。
神社巡りも史跡巡りもなしで、諏訪湖だけ見て、この旅は終わり?
私には衝撃的だったけど、教授には何のメリットもなかったはず。

「教授は、今回、本当は何がしたかったの?」
聞いたほうが早いから、聞いた。
教授は悪びれる様子もなく、
「君を連れてくれば、資料や妄想で埋められなかった真実を、もしかしたら知ることができるかもしれないと思ってね」
と言った。

神降ろし、ねえ…。
私の【見る】ものも、多分に妄想だと思うけど…。



411 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:15:30 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 2/10

「神降ろしや霊媒という現象は、本当に神霊が下りてくるのではなく、強いヒステリー状態で心の制御が外れることなんだよ」
教授には意外に現実主義な一面がある。その視点から解説すると、私の精神状態はこういうことになっていたらしい。
「ふだんの生活の中で、僕らはやりたいことをやってはいないだろう?法や良心といった無形の制約が行動を規制しているはずだ」
「行動に出せない本能的な欲求は、けれど、なくなるわけじゃなく、奥底に溜まり込んで、ストレスという抑圧感を生み出している」
「何かのきっかけで、その本能は表に現れる。傍目から見ると、理性のタガが外れた異常な状態に映るはずだ。それはトランスと呼ばれる」

トランス状態…。
よくは知らないけど、奇声を発したり、踊り狂ったりするイメージがある。
あれも、今回の私のような幻覚を見たために起こす行動なのだろうか。

「私って、ヒステリーな体質なんですかあ…。気をつけないと…」
自嘲すると、教授は、少し考え込んで、言った。
「そこはよくわからない。君は、僕が情報を与える前から、【正しいモノ】を見ることが多々あったね。だから、本当に神が降りて教えたのかもしれない」
そのほうが僕としては面白いからね、と、無責任なことを付け加えて、教授は話をくくる。



412 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:17:09 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 3/10

「私の今回の妄想は、何か【正しいモノ】の痕跡があったんでしょうか?」
現実であってほしくはないけれど、もしヤサカトメが本当にあんな目に遭ったのなら、せめてお参りぐらいはしてあげたいと思う。
「こじつけだが、こんな一致はある」
教授は数点の情報を教えてくれた。

一つ目。
タケミナカタが逃げ込む前から、諏訪には固有の土地神がいた。その代表的なものはソソウ神(類似のミシャグチ神と同一視されている場合もある)。白蛇の姿をした神様なのだそうだ。
同じく土地神であるヤサカトメが、蛇の化身だという説はありうる、らしい。

二つ目。
タケミナカタにはコトシロヌシという兄がいて、国譲り後の出雲の平定に一役買った。
出雲に残ったはずのこの兄神は、なぜか諏訪大社にも祀られている。
コトシロヌシは七福神の恵比寿と同一視されることの非常に多い神様だ。恵比寿は、水死体を愛でる神である。

三つ目。
諏訪大社には御頭祭という神事がある。
現在は剥製の頭を使うが、昔は鹿の五臓を贄に捧げる儀式だった。史書に因れば、【脳和え】という代物もあったらしい。

四つ目。
タケミカヅチは手を剣に変化させることができる。



413 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:18:13 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 4/10

「お蕎麦食べたら、やっぱりタケミナカタとヤサカトメのお参りに行ってもいいですか?」
私は、自分の幻覚を信じることにした(笑)。
でも、教授は渋い顔をした。
「僕は、以前、諏訪の地に張られた結界を体験したことがあった。帰り道が見当たらずに、20号線を行ったり来たりさせられたよ。感受性の強い君を連れて行ったりしたら、帰れなくなるかも知れない」
真面目な口調だったので、思わず吹き出した。

その問題の20号線を少し南下し、M町という交差点を左に折れるように指示されたので、素直に従う。
少し進むと道が細くなって、学校の脇を通った。
教授は、
「あと10分ぐらい進んでくれ」
と、目的地が近いことを告げる。

さらに走ると。
なぜか、上社の鳥居が見えてきた。



414 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:18:54 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 5/10

「諏訪大社に着いちゃいました…けど…」
私には、まだ事態がよくわかってなかった。
「M町で曲がったはずだな?」
教授が念を押すので、頷く。
「やっぱりやられたか」
教授は、苦笑を浮かべながら、Uターンをするように言った。
駐車場の手前の交差点でハンドルを切り、元の道を引き返す。
「え?え?上社の方向に向かってたわけじゃ…なかったんですよね…?」
手が震えてきた。
「むしろ離れるように進路を取ったんだけどね」
教授は、諦めたように笑う。そして、
「無事に着けたら起こしてくれ」
と目を瞑った。

ええええっ。そんな〜!



415 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:19:54 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 6/10

アクセルを踏む足に力が入らなくなってきた。
教授は本当に寝てる。
前方には、また上社の手前の駐車場が待ち構えてる。

なんで?絶対に反対に走ったはずだよ。なんで?!

タケミナカタを封じた結界は、社だけじゃなくて、諏訪全体にも張り巡らされていたんだろうか?
もしかして、町中に御柱が建ってたりするんだろうか?
馬鹿な想像をしながら、もう一度Uターンする。
あの鳥居をくぐったら絶対にダメだ。取り込まれる。



416 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:20:45 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 7/10

何度もの交差点を、ひたすら直進した。
こうすれば、もう上社に近づくことはないはず。
前方の信号が赤に変わった。車を停止線で停め、辺りを確認する。
大丈夫。遠ざかってる。
細い支柱に支えられたLEDが青に変わるのを、焦りながらひたすら待った。長い。早く。

……………。
長いってば、この信号。
それに、支柱が木製って、絶対に変…。

交差点を囲む信号は、すべて御柱でできていた。
細く尖った先端が、空に向かって、悪意のある黒い空気を吐いている。

信号が青に変わった。
どうすればいいかわからなかった。
私は、ゆっくりとブレーキから足を離し、アクセルに置いた。
車は交差点に進入した。



417 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:21:32 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 8/10

御柱が、4つとも、スローモーションで倒れてくる。
鋭い切っ先は、すべて私に向いていた。
ねえ、ちょっと待って。停まったほうがいいの?
「教授…」
頼みの綱を呼んでみるけど、声が上ずっているせいか、教授は気づかない。

このまま進んだら刺さる。しかも、狙われてるのは、頭、だよね。

ハンドルを大きく切りたい衝動に駆られた。汗ばんだ手に力が入る。
だけど、ハンドルは動かなかった。何かが軸を抑えているかのように、まったく回らなかった。

長い長い数mが、終わる。
交差点を無事に抜けた私の目に、諏訪インターの入り口が飛び込んできた。
迷わず車を入れ、高速に向かった。



418 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:22:19 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 9/10

「でね、教授ってば、高速を下りるまで起きなかったんだよ」
帰ってきてすぐに、私は兄貴に電話で行程を説明した。
「蕎麦、食べそびれたし…。もう教授には絶対に付き合わない!」
と断言するも、兄貴は笑ってるだけだ。

兄貴に連絡したのは、あの交差点を無事に渡れたのが、もしかしたら兄貴のお守りのおかげかな、と思ったから。
でも兄貴には何も兆候はなかったらしい。

「今回の守護神は【大黒天】じゃなくて、【だいこくさま】だったのかもよ」
兄貴の発言は冗談めかしていたけど、私は、なんとなく、ほんとにそうだったんじゃないかと思ってる。
息子が封印されてる諏訪を、父親である大国主は、ずっと見守ってたような気がするんだ…。



419 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/10(水) 00:26:12 ID:r4RP7Qy80

お諏訪さま 後編 10/10

兄貴と話をして数時間後、今度は兄貴から電話が来た。
「諏訪大社の上社ね、1回丸焼けしてるわ」
「は?」
わけがわからない。

兄貴の話は、つまり、こういうこと。
諏訪大社の上社は、1582年に戦火で全焼してしまったらしい。
当然、封印の社も御柱もなくなったから、タケミナカタの御霊は天に上ることができただろう、と。
「ヤサカトメは?」
と聞くと、下社には焼失の事実はないとのこと。

「でもさ」
と兄貴は続ける。
「お姫さんの御霊は、いま、上社本宮のすぐ近くにある前宮ってとこに祀られてるんだ。諏訪湖を隔てて夫婦を祀るのは可哀相だってことでね。諏訪の人、粋な計らいをすると思わねえ?」
「………」

電話口で、私は、嗚咽を聞かれまいと必死だった。
怨霊とか悲劇なんて結末より、ずっとずっと。
2人がそばにいられる結末のほうが、心に響くと思わない?

心なしか、兄貴も嬉しそうにはしゃいでいる。

よかったね、ヤサカトメ。
優しい土地に祀られて、本当によかったね。
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