検体@

535 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:40:43 ID:VsVHhltb0

検体 1/11

広島までの行程に備えて、車の整備をした。
今回は、なんだか、私がしっかりしないといけない気がする。
教授の、非業の死を遂げた身内に関わることなのだから。

…きっと、いつもみたいに平静な旅にはならないよね…?

出発の声がかかる前に、問題の甕を見せてもらいたくて、兄貴に頼んだ。
でも、
「駄目」
の一言。
未だに継続中の呪いが、どんなふうに跳ねるか、わからないからなんだって。

2週間ほど経って、鋭い寒さが少し和らいだ頃、教授から連絡があった。出発だ。
新幹線の車内に中国地方の駅名が流れ始めたとき。
私は、やっと、【運転手の自分】が今回の旅に必要なかったことに気づいた。

えー…。
教授、今度は私に何をやらせようと…?(汗)



536 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:41:32 ID:VsVHhltb0

検体 2/11

電車内では教授といろいろな話をした。
いままでの、冒険じみた旅の話。
人間の生への執着と死への恐怖の強大さ。
死後も現世に留まる意識体(霊魂)が存在するのかどうか。

「妹さんが、もし、まだこの世を彷徨っているとしたら、教授は会いたいですか?」
と聞くと、
「ぜひ会いたいね。飢えて死んでいく気持ちを事細かに聞いてみたい」
と言われた。
やっぱり、教授の発想だ(汗)。
「そういうこと言ってると祟られますよ」
と忠言するけど、教授は楽しそうに、
「僕に降りかかるはずだった祟りは、すべて妹が受けてくれたからね。僕は長生きするよ」
と答える。
うちで身の上話をしていたときの神妙な様子は、完全に演技だったらしい…。



537 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:42:43 ID:VsVHhltb0

検体 3/11

話の後半になって、問題の甕の出所について聞くことができた。
「あれは、元は、爆心地から1キロほど離れた寺院に祭られていたんだ」
教授の説明に、
「爆心地って原爆ドーム?」
と基本的なことから聞き直さなければならない私(汗)。
「そう」
教授は肯定する。
「ただ、原爆ドームに、直接、落下したわけじゃない。考えてごらん。太陽に匹敵するほどの高熱を発する爆弾が落ちたとしたら、建物の原型が残ると思うかい?」
「…」
そっか。
原爆の熱の威力って太陽並みだったんだ、と、改めて震撼する。
「実際の爆心地は、ドーム傍(そば)の相生橋で、地上に落ちる前に空中で爆発したらしいよ」
教授は補足した。

「その寺院で被爆した甕は、戦後の混乱期に盗難と売買を繰り返され、僕の家の蔵に納まった。いかにも古物だし、価値のあるものだと思われたんだろうね」
教授は甕の写真を見せてくれた。
黒ずんだ表面は気味悪く爛れて、【いわくつき】の雰囲気がありありと見て取れる。
「この溶けたような外見は、原爆で?」
と聞くと、
「たぶん」
との答え。



538 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:44:42 ID:VsVHhltb0

検体 4/11

「僕の家の者は、誰も甕の出所を知らなかった。我が家には、古物商から説明された【呪い】の話が伝わっていただけだ」
「そんなものを、よく買う気になりましたね」
私は教授一家の【趣味】に呆れた。
教授は笑って言った。
「確かに自虐的な趣味だ」
でも、と続ける。
「僕も、一目見たときから、この甕に惹かれるものがあったんだ。理由はいまでもよくわからない。呪いに引き寄せられたのかもしれないな」
「その興味のおかげか、すぐに甕の破損と原爆を結びつけることができた。そして、広島と長崎の爆心地の、史跡、郷土資料館、寺社を回るうちに、広島のS寺で以前保管されていたという情報を得た」
「郷土史に興味を持ったのもこの頃だな。歴史には、遺しても忘れてもいけない事実が潜んでいるとわかったからね」

余談ながら、私は聞いた。
「歴史研究家になろうとは思わなかったんですか?」
だって、歴史に比べて郷土史の評価は、低いと思わない?
「すぐに、証拠を出せと色めき立つ連中を相手にするほど、時間の無駄はないと思わないかね?」
教授はつまらなさそうに愚痴る。
なんだか笑えてしまった。



539 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/09/20(土) 00:46:01 ID:VsVHhltb0

検体 5/11

「情報を得て、すぐにでもS寺に行って話を聞きたかったが、残念ながら、その直後に妹が死んだ。甕は厳重に蔵の奥にしまわれて、見ることさえできなくなってしまったんだ」
肩をすくめる教授。
そ、そんな反応でいいの?妹さん、可哀相じゃない?(汗)
「それから十数年が経って、蔵を仕切っていた僕の父が死んだ。ところが、また残念ながら、僕には甕を取り出せない理由ができてしまったんだ」
「えっと…」
ちょっとややこしくなってきたので、時間をもらって計算してみた。

教授は、いま60代前半。戦後生まれだと言ったから、62、63歳ぐらい。
妹さんが亡くなったのは、教授が20歳前後だから、いまから42、43年前。
それから10数年経って教授のお父さんが亡くなったんだから、これは30年ぐらい前のことなのね。で、教授は30代半ば…ぐらい?

「その理由ってなんですか?」
と聞くと、教授は複雑な顔をして、言った。
「僕に息子ができた。つまり、代替わりしてしまったんだよ。甕の呪いは、今度は息子が被ることになる」
「えっ?!」
私は、いろんな意味で、驚いた。
教授…奥さん、いたんだ…。
私の失礼な感想を、気づいたんだろうけど無視して、教授は続けた。
「僕にも人並みな感情があるんだと、あのときは感心したよ。息子に害が及ばないように、すぐに、住職の寺に甕を預けて供養を頼んだ」
「それで、息子さんは、いま…?」
と聞くと、教授は、少し困ったような顔をして、頭を掻いた。
「健在だよ。離婚した妻が連れていったから、何年も顔を見てないけどね」
「………」
…やっぱり…、って言っちゃ、ダメだよね(汗)。

検体Aへ続く
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