ハルさん 中編@

816 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:45:48 ID:4edWM6XR0

一応お断り。
この物語はフィクションです。

ハルさん 中編 1/15

パニックに陥った私は、3度押し間違えてから、兄貴の家に電話を繋げた。
兄貴は、
「いまから通夜」
と慌てた様子だったけど、尋常じゃない私の声音から、危機的なものを悟ったらしい。
「いま、どこ?」
と、
「お前に何かあったのか、晴彦に何かあったのか、どっち?」
と、短い言葉で質問してきた。
「いま、藤原京」
「ハルさんがいなくなったの」
聞かれたとおりに答えると、
「わかった。晴彦の携帯に連絡を取ってみるから、ちょっと待ってて」
と電話を切られた。

携帯の待ち受け画面に映る秒針が、34秒を数えたとき、兄貴から着信があった。
「ハルさん、出た?!」
と勢い込むと、兄貴は、
「圏外だった」
と、感情を抑えた声で答えた。



817 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:46:14 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 2/15

溜息と同時に、
「状況がわからん。説明してくれ」
と兄貴が言う。
私はさっきの幻覚も含めた成り行きをすべて話し、意識をなくしていた時間がほんの5分ほどであったことも伝えた。
「5分ありゃ、視界から消える距離まで行くことはできる」
現実路線で考えようとする兄貴。
でも、すぐに、
「お前をほったらかして、どこかに行くようなヤツじゃないな」
と考え直した。

あの大首がハルさんを食べてしまったんだ。
私は確信していた。
でも、兄貴に伝えるために言葉にするのは、ハルさんの未来を完全に奪ってしまうような気がして、とても怖かった。
ただの行方不明だと、自分でも思っていたい。

黙っていると、兄貴は、
「とりあえず、お前は人のいる場所まで行け。そこで夜になったら、いろんな意味で二次被害だ」
と指示した。



818 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:47:06 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 3/15

畝傍の駅まで歩いてから、北上する電車に乗った。
奈良駅を降りてからは、人のいるほうへと、半分、無意識に、足は三条通に向かう。
気持ち悪い…吐きそう。
ハルさんを藤原京に置いてきてしまった。
商店や土産物屋が並ぶ賑やかな一角に、小さなビジネスホテルを見つけて、反射的に飛び込んだ。
とにかく横になりたかった。

部屋を借り受け、ベッドに倒れこむと、携帯に、兄貴から電話が鳴った。
「いま、どこ?」
さっきと同じ質問。でも口調はいくらか穏やかになってる。
「奈良駅の近くのホテルにチェックインして、いま、部屋の中にいるよ。人はたくさんいるから、大丈夫」
私は忠実に答えた。
「そっか。それならいい」
兄貴はほっとした様子で言って、
「あとはこっちで手配するから、お前は、明日の朝にでも帰って来るんだぞ」
と、付け加える。



819 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:47:31 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 4/15

…手配って、なんだろう。
…兄貴の言い方は、まるで、事務処理のことみたいだ。

「私、帰らないよ。ちょっと休んだら警察に行ってくる。そして、明日は藤原京に戻る」
と伝えると、
「帰って来い」
と強要された。
「帰れるわけないっ!」
と抵抗すると、
「晴彦は探さなくていい」
と断言された。

頭が痛いっ。
兄貴なんか大っ嫌い!

「ふざけんな!」
と兄貴に怒鳴った。
兄貴は、
「お前なあ…」
と呆れたようだったけど、
「とにかく帰れ」
と、意見は曲げなかった。



820 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:47:55 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 5/15

怒りに任せて携帯を切り、財布だけ持って、部屋を出た。
人間が突然消えてしまったんだ。警察は捜してくれるはず。

駅前の交番に向かう途中、兄貴から何度もコールがかかった。
全部、無視した。
交番の前で深呼吸して、できるだけ冷静になる。
一言…一言がちゃんと伝わればいい。
『友だちを探してください』
って。

20分後、私は駅の端のガードレールに腰掛けて、兄貴に電話をしてた。
「『事件性が薄いから、もう少し待ってみたら?』って言われた…」
「だろ?子どもでもないのに、緊急に警察が動くか」
兄貴は呆れている。
「じゃあ…ハルさんを探してもらうには、どうしたらいいの…?」
私は半泣きになりながら、兄貴に指示を請う。
…兄貴は沈黙している。



821 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:48:31 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 6/15

「お前には急なことだったから、慌てたかもしれないけど」
やがて、兄貴は、言い含めるようにゆっくりと話し出した。
「俺も晴彦も教授も、こんなことはあるだろうと、覚悟はしてた」
「…」
甕の祟りのことを言ってるのは理解できた。
現実感はなかったけど。

兄貴は続ける。
「だから、晴彦はもういい。それより、晴彦を探すことで、お前にまでアレが関わってくることのほうが困る」
「よくない」
また押し問答になるのは承知で、私は反論した。
「ハルさんが祟りなんて受けるわけない。ハルさんは何も悪いことはしてないんだもん」
「呪いだか何だかのせいで、家族がバラバラで暮らさなきゃならなかったんだよ。甕を壊したくなるのは当然じゃない」
「教授の妹さんが死んだのは、祟りっていうより、自分で招いた結果でしょ?ハルさんとは違うもん」

甕は、私が思っているより、ずっと強力な呪具だったのかもしれない。
だけど、まったく猶予も与えずに、こんなふうに暴力的に人間を取り込んでしまう道具なんて、ありえるんだろうか。
納得できない。
全然理解できない。
だから、ハルさんは甕の呪いを受けたんじゃない。何かのトラブルで失踪しているだけ。



822 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:49:04 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 7/15

「…ったく」
電話口で、兄貴は盛大な溜息をつく。
「嫌な気分にさせるだけだと思って黙っててやったのに」
って言うけど…何?
兄貴の声が重く、聞き取りにくくなった。
…何?教授が…何…?

「晴彦が行方不明になったと聞いて、すぐに教授に電話をしたら、奥さんが出た」
兄貴が説明を繰り返す。
「時を同じくして、教授も断続的に嘔吐が続いているそうだ。栄養剤の点滴が間に合わなくて、このままだと脱水症状を起こす。そしたら…」
死ぬかもしれない、と、兄貴は言った。
教授が死ぬかもしれない、と。

どうやってホテルまで帰ったんだろう。
体の下にベッドの感触はあるけど、今が現実なのか夢の中なのかも、よくわからない。

教授にまで害が及ぶなんて…。
もう、甕が関係ないとは言えない…。



823 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/10/08(水) 23:49:41 ID:4edWM6XR0

ハルさん 中編 8/15

夢うつつに、私は、藤原京での光景を反芻していた。
大きな首は…死相が強く浮き出てて、あのときはよくわからなかったけど…それほどの歳ではないように感じる。せいぜい40歳ぐらい…。
喉は、一直線に切り取られていた。大きな刃物で薙いだような傷跡だった。
藤原京に仇を為そうとしたところからも、入鹿の首としか思えない。

それが、ハルさんを飲み込んだ……ことに……。

私は、少しずつ違和感を感じ始めた。

甕は入鹿を封じるための呪具だったと、S寺の和尚は言った。
もう少し補足すると、甕をS寺に持ち込んだのは、修験道の祖、役小角の弟子に当たる人たちだったらしい。
広島で乗ったタクシーの運転手さんが話してくれたように、小角はS寺に井戸を作った縁のある人だ。だから、後の弟子たちがS寺を訪れたとしても、不思議はない。
弟子たちは、同門の修験者たちが、藤原京安泰のために入鹿と戦わされ、命を落としたことに、やるせない気持ちを持っていたのだろう。
だから、彼らの無念が詰まった甕を寺に託した。
彼らが成仏する後世まで、ずっと祈りを捧げてやってほしいと。

ハルさん 中編Aへ続く
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