赤い枠@

392 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:46:32 ID:M8Ukg23i0

お久しぶりです。やっと退院できたっ。

主人公、変わります。

赤い枠 1/13

岡山の支部で成績1、2番を争っていたというエリート営業マンが、この小さな支店に転勤してくると聞いて、俺たちは戦々恐々となった。
のんびりした支店の空気が乱されるんじゃないか?ハードな営業方法に切り替わって、ついていけなくなった社員はリストラされるんじゃないか?
そんな噂の中、やってきた大月(おおつき)は、感じのいい、ごくごく普通の青年だった。
歳は俺より2歳下だという。
支店のやり方に慣れるまで、俺の下で活動することになった。

実はいま、俺には、頭の痛い問題が持ち上がっている。
白地世帯(営業活動をしたことのない土地)の開発目的で飛び込んだ田舎町で、1件の契約も取れていないんだ。
【飛び込み】の基本は情報収集から始まる。その世帯の構成、個人情報の取得。地域交流の有無。そういうものが受け取れて、初めてスムーズな販売交渉をすることができる。
それなのに、その田舎は態度が硬くて、特に近隣との交流関係がまったく聞き出せずにいる。

営業車に大月を乗せて向かう途中、その話をすると、大月は、
「ああ、なるほど」
と言った。
こいつには要因がわかるんだろうか。



393 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:47:01 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 2/13

2時間以上をかけて到着したI村は、センターラインのない市道脇の低い土地にへばりついているような限界集落だった。
年寄りが多いということは機動力がないということだ。
詳しくは書けないが、俺たちの販売する商品は、そういう家屋にこそ必要なサービスだった。

市道から車を下ろし、数反の田んぼが広がる農道に車を停める。
「村には車が入れないんですか?」
と大月が聞いてくるので、
「入れるよ。でも、目立ちすぎて警戒される」
と俺は苦笑した。
初日、すべての家の玄関で応答を無視された俺の苦い経験談だ。



394 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:47:29 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 3/13

大月を伴って、農道の先に点在する家々を回った。
1軒めは門前払い。
2軒目は留守のようだった。
3軒め、やっと玄関が開いたので、家主の顔を見ることができた。70近いような婆さんだった。
俺が説明をしている間、婆さんは無遠慮な視線で俺たちを眺め回していた。
この雰囲気が苦手なんだよなあ…。あからさまに敵対視されてるのがわかるから。
世間話ふうに家族構成を聞きだそうとしたとき、横から大月が、
「若い方が同居してるんですか?窓のサッシが赤いのってシャレてますよね」
と口を挟んだ。
あ、馬鹿…。
婆さんは険しい顔になると、
「気分悪くなったわ。帰れ」
と、俺たちを追い出した。

「最初に言わなくて悪かったな」
俺は、交渉が破綻したきっかけを作った大月が落ち込んだだろうと思って、フォローしてやった。
だけど、大月は全然反省した様子もなく(!)、
「あれに原因があるんだ」
と、いまの家を振り返って観察しながら、考え込んでいる。
「他の家も見て回っていいですか?」
と言うので、
「…どうせ訪問するんだから、ついでに窓枠でも何でも覗けば?」
と答えておいた。



395 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:48:05 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 4/13

4軒めは留守…というより、人が住んでいないようだった。窓枠は普通の色の木枠だった。
5軒めは赤い木枠の家。その窓から爺さんの顔が覗いていたが、呼びかけても出てこなかった。
6軒めは比較的新しい総二階の家で、サッシの色はすべて赤だった。
インターホンを鳴らすと、50代ぐらいの痩せた主婦が出てきた。

俺が今回訪問したのは、いままで未訪だった家屋ばかりだ。だから、この年代の人間が村に住んでいることは初発見だった。
主婦は、
「うちには必要ないけど」
と、商品については笑いながら断ったが、世間話には応じてくれた。

「この村は源義経をかくまった歴史のあるところなんですって」
主婦の話に、歴史音痴の俺は、
「はあ…」
と答えるのが精一杯だったが、大月はこういう分野に明るいらしく、
「平泉への逃避行の途中の話ですか?身近にそんな場所があるなんて、ちょっと感動ですね」
と、上手く話を合わせていた。
「そうそう。実のお兄さんに追われて、最期は平泉の領主にも裏切られて死んじゃったんですってね。可哀相ねえ」
主婦は、こういう話を気軽にできる相手に飢えていたのか、楽しそうに応じる。
「義経は天才的な軍師だったので、兄の頼朝は自分を越えそうな弟を恐れたのかもしれませんね。才能は、本当は伸ばしてあげなければいけないものなんですが」
と大月はまとめて、主婦に、
「ところで、いまハマってる趣味なんかないですか?僕たちにはその時間を捻出するお手伝いができるんじゃないかなと思ってるんですが」
と、いきなりクロージング(販売交渉で締めに入ること)をかけた。
結果。
俺はこの日、初めてI村で契約を取れた。



396 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:48:39 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 5/13

帰り道、改めて大月に、心から、
「ありがとう」
と言った。
営業マンならわかると思うが、契約が取れないことが自信喪失に繋がって、後々までいい影響を与えないことがある。俺はまさにそれだった。
やっとその状態が打破できたのだから、礼なんか、何べん言っても惜しくない。
「よかったですね」
と、大月は驕った様子もなく、笑う。
俺もつられて笑った。なんか、こいつ、いいヤツだ。
「大月は、いつもあんなふうに知識を武器にして契約を取ってるの?」
と聞くと、
「んー…。契約を取ることは頭にあるけど、それ以上に雑談好きなのが、いい結果に結びついてるって感じですかねえ…」
と、無欲な一面を覗かせる。
なるほど。トップにいるヤツは、案外こういう性格なのかもしれない。

「あの村、もう少し通えば、もっと顧客数取れると思うかい?」
1件の契約ですでに満足してしまった俺は、もうI村に足を運ぶモチベーションを失くしていたが、一応、大月に窺いを立ててみた。
大月は、少し考えたあと、言った。
「あの赤い窓枠…、もしかしたら、義経を保護した一族の証なんかじゃなくて、他所からI村に入り込んだ開拓民かもしれません」
「だから、窓枠の色が違う住人との交流がなくて、閉鎖的な暮らしをしていたんじゃないかな」
「開拓民の一人と契約ができたんですから、他の世帯も心を開いてくれる可能性は高いと思いますよ」
それって、つまり…。
「部落問題があったってこと?」
と確認すると、大月は曖昧に笑って、
「極端に閉鎖的な地域にはありがちなんですよ」
と答えた。



397 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:49:05 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 6/13

会社に帰ってから、大月の話と主婦の話を合わせて考えてみた。
I村は源義経の隠れ里だったという主婦の話は、大月に言わせれば『ありえない』ことらしい。
義経は、ここからはるか北のG県を通って平泉に至った。この地方に足跡が残るわけがない、と。
余所者として冷遇されてきた赤い窓枠の住人たちが、プライドを保つために語り継いできた偽りの寓話だろう、とも。
なるほど。筋は通っている。

ただ、そうすると、主婦の話が成り立たない。主婦は、窓枠の赤くない家屋の住人たちのことを、『隠れ住んでいた義経を、追っ手に告発しようとした一族』と呼んでいたんだ。
『あの人たちは、義経の祟りを受けて、次々と不幸に見舞われたの。いまでは村に残ってる人はいないわ』

大月の話によれば、I村での立場は、窓枠の赤い家のほうが弱いと思われる。
一方、主婦の話では、窓枠の赤くないほうが村から追い出されている。

…あの村…、本当に、窓枠の赤くない家には、人が住んでいなかったんだろうか…。

つまらない好奇心に駆られたと、我ながら苦笑する。
今夜、仕事が終わったら、もう1度I村に行ってみよう。

赤い枠Aへ続く
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