赤い枠A

398 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:49:31 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 7/13

昼間ののどかな田舎の情景と違い、闇に沈むI村は、妖怪が出てもおかしくない、おどろおどろしい雰囲気だった。
会社を出る前に、I村に行くことを大月に告げると、大月は笑いながら、
「ご苦労さまです」
とからかった。
だよなあ。やっぱり、俺、物好きだわ。

車は市道に路上駐車した。あまりに静かで、それ以上、エンジン音を近づかせるのは躊躇われたからだ。
昼間と同じように農道に下りて、集落の間の細い畝道を辿った。
明かりの漏れている家の窓枠は、赤。
人の気配のない家の窓は、アルミの銀や、昔ながらの木枠でできている。
本当に、赤い窓枠以外の家屋は、廃墟と化してしまったんだろうか。
初夏だというのに、空気がやたらと冷たかった。
沈丁花の重い香りが漂ってくる。

小路はますます奥深く、山に入り込んでいく。
闇の中に点々と灯る生活の証。
こんなところに住む人間に、申し訳ないけれど、恐怖を覚えた。
赤い窓枠の住人たちが、本当に他所から入り込んできたのだとしたら、なぜ好き好んで、この土地に住んだのだろう?
こんな、霊気漂う未開の地に。



399 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:49:56 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 8/13

いつのまにか、俺は山の裾野まで来ていた。
獣臭のする山道の先に、一軒、無灯火の家屋が見える。
その家の窓枠の色を確認したら、帰ろう。そう好奇心に区切りをつける。
厚い樹木の枝葉が頭上を覆う真の夜闇の中、足元に注意を集中して、目標物に近づいていった。
ときどき目を上げて確かめる家屋に、人の住んでいる気配はない。

どきん。
自分の心臓の音が、鼓膜の隣りで鳴り始めた。
掌に汗が滲んでいる。
怖い、んじゃない。やばい、んだ。
何かが住んでいる。あの家に。
引き返さないと。【見た】ら、取り返しがつかない気がする。

アルミ色の窓枠をしたその家に背を向けた瞬間、頭の中に強烈なイメージが刺し込んできた。
巨大な白羽が、家の屋根を貫く。
暖かな電灯の漏れ出た窓が、直後、大音響を立てて火を噴いた。
内部で爆発が起こったんだ。



400 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:50:19 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 9/13

俺は必死で走った。元の市道に戻るために。
後ろから、数人の悲鳴や呻き声が追いかけてくる。
『助けて!』
『置いていかないで』
『一緒に連れて行って』
思わず後ろを振り返った。
そこで、俺は、情けなくも腰を抜かした。

焼け爛れた人間の残骸が3つ、追いすがってきていた。
2つは大人、1つは子どもの大きさだ。親子だろう。
突然の爆発で焼け死んだ人たちだ、と、確信した。

その3人の後ろから。
トドメを刺すために、鬼が、巨大な鉈を振り上げながら追いかけてきた。



401 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:50:46 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 10/13

鬼は、3人の首を次々と刎ねた。
子どもの首は、俺の足元に転がってきた。
俺は膝を縮めて、白目を剥いているその首を避けた。
誰の物かわからない嗚咽が、たくさん、辺りに響く。

鬼…巨大な角の生えたマッチョなそいつは、鉈に滴る血液を舐めたあと、俺のほうに歩いてきた。
俺は逃げることもできず、笛のような呼吸音を鳴らしながら、鬼を凝視していた。
死にたくない。
心臓が痛いほど早鐘を打つ。
死にたくない!

無我夢中で、鬼に向かって胸ポケットの携帯を投げつけた。
鬼の硬い皮膚に当たって、携帯はあっさり地面に落ちる。
俺は死を覚悟して、目をつぶった。
そろそろ臨月に入る奥さんの顔が浮かんで、涙が滲んだ。

そのときだった。
鬼の足元に落ちた役立たずの携帯から、強烈な発光が起きた。
同時に着信音がけたたましく鳴る。
鬼は、光と音に責められたように、踵を返して山に帰っていった。
携帯は、鬼の姿が視界から消えるまで、その現象を持続した。



402 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:51:18 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 11/13

俺は、腰が抜けたまま、這って携帯に辿りついた。
受話ボタンを押すと、大月の慌てた声が流れてくる。
「なかなか取らないからどうしたかと思いましたよ。大丈夫ですか?」
…なぜこいつは、このタイミングで、こんなことを言うんだ…?
「大丈夫」
短く答えて、俺は、昼間に続いて礼を言った。
「またお前に助けられた。ありがとう」
大月は、すべてを見透かしたように、
「間に合ったんならよかった」
と言った。
…不思議なヤツだ。

車までの行程をゆっくりと歩みながら、大月の話を電話越しに聞いた。
「オレ、今日、会社を上がったあとに、【彼女】の家に遊びに行ったんですよ」
始まりは、そんな内容だったと思う。
「オレの【彼女】、…なんていうか…、少し鋭い人で。オレを見るなり、『背中に鬼が見えるよ。人を殺すのが好きみたいだから、追い払っておくね』って言うんです」
ふだんなら信用しない話だけど、いまそれらしいモノを見たばかりの俺は冷汗をかいた。
大月は続ける。
「そんなこと言われたのは初めてだったんで、原因は昼間にI村に行ったことだろうなと思ったんです。だから、笹川さんのことが気になって」
真っ先に心配してくれたらしい。
「…お前の【彼女】に感謝するよ。今度紹介してくれ」
と締めくくると、
「拝観料高いですよ」
と返された。
仏像かよ(笑)。



403 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:51:43 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 12/13

翌日、熱を出して欠勤した。一晩中、嫌な夢を見ていたからだ。
新築の家に越してきた親子3人が、地域の軋轢に悩んで、ガス自殺をする夢だった。
ガスの充満した家に、突然の雷が落ちた。3万ボルトの電圧が火災を誘発し、新居はあっけなく破裂した。
まだ生きていた母親と子どもは、玄関から出て助かる寸前に、爆発に巻き込まれた。
五体が吹き飛んだ遺体の様子が、目が覚めた今でも、生々しくて頭から離れない。

夜、大月に電話をした。
「サポートする立場でありながら休んで悪かったな」
謝ると、大月は、賑やかな宴席の雰囲気を背景に、
「しんどかったですけど、6軒、契約を取ってきましたよ。熱が下がったら、快挙祝いしましょう」
と笑った。
ろ…6軒?!ありえねえ…。
「どこで?」
と聞くと、
「I村です。赤枠の窓の家ばかりを訪問した成果ですよ」
と言う。
「…あんな気味の悪いとこ、よく再訪したなあ」
と、半ば呆れると。
大月は、いつも以上に穏やかな声で、
「鬼が出る里だったにしても、あれほどの自然が残っている場所を好きにならない人はいないでしょう?」
と返して来た。



404 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/11/09(日) 23:52:55 ID:M8Ukg23i0

赤い枠 13/13

………たしかにそうだ。

昨日の夜、車を停めて里に入ったとき、山の稜線が重なり合う間から、遅い三日月が顔を出した。
水を張った田んぼが月光色に染まり、野生の菜の花が淡く色を添えていた。
…しばらく…見惚れたんだ…。
こんなところを見つけて住みついた人間に、嫉妬さえ感じた。

「どんなにすばらしい環境に住んでも、人間のやることなんてドロドロしているのかもしれないが…」
開拓民と先住民との確執を【鬼と犠牲者】というイメージで具現化した俺にとって、大月の言葉は、皮肉なしには賛同できなかった。
でも。
「…でも、俺、そういう側面を持つ人間だからこそ、関わることを楽しいと思ってるなあ」
厄介だが、それが本音だ。
大月は、
「オレも人間が好きですよ。だから、笹川さんも早く顔見せてください」
と労ってくれた。

うん。
なんだか、大月って本当にいいヤツだ。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -