鬼になる理由<崇志2>

971 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:20:32 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 1/9

「家…っていうか…」
と美耶が呟くのも頷ける。
集落から離れて、深い樹木の中にぽつんと立っていた『それ』は、外壁を辛うじて残している程度の瓦礫だった。
窓ガラスはすべて外側に吹き飛んで、家屋を支えていただろう柱や壁の破片が、その穴を埋めていた。
「なんだか封印みたい」
美耶の感想。確かに、誰かが故意に窓を埋めたような印象を受ける。
「何を封印したんだ?」
と聞くと、妹は困った様子で、
「悪いものじゃない気がする」
と答えた。

晴彦の話では、笹川氏は、この家でガス爆発が起こる夢を見たという。
もう少し細かく言うなら、ガスで心中を図った一家を落雷が襲ったのだと。
だとすれば、この家にいて、『封印』されているのは、その一家の御霊ということだろうか。

どれほどの意味があるのかわからないが、慰霊の経を唱えることにした。
美耶も隣りで手を合わせている。


972 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:21:20 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 2/9

蝶番が外れ、立てかけられているだけのドアを外して、中に入った。
天井が落ちている。火災で焦げた壁紙が、部屋の闇を濃くしていた。
「懐中電灯が要ったな」
と苦笑しながら慎重に踏み込むと、美耶が、
「置いてかないでよお」
と泣きそうな声で追いすがってきた。
…まだ何も出てないのに、ビビんなよ(溜息)。

奥に進むと、原形を留めている居間らしき部屋に出た。
片隅に階段が見える。この部分は天井が残っているから、階段を上れば2階に行けるはず。とはいえ、いつ崩れるかわからない階段に、美耶を連れて行くわけには行かないな…。
「ちょっと上を見てくるから、ここで待ってて」
と言うと、
「ええ?!お兄ちゃんばっかりずるいっ!」
と盛大に抗議を始めたが、俺は無視して進み始めた。


973 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:21:36 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 3/9

もし笹川氏がここにいなかったら、もう当てはない。
2階に潜んでいてくれることを祈っていた俺の目の前に、期待以上に早く、それらしき足が視界に入ってきた。
2階の入り口に仁王立ちしているパジャマ姿の男。
無表情で俺を見下ろしている。
目の焦点が合ってない。正気が戻ってないな。
俺は階段を上りきり、笹川氏らしき人物と、できるだけ距離を取りながら、対峙した。
『やつ』の右手には、なぜか鉈が握られていたから。


974 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:22:07 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 4/9

『やつ』は、抑揚のない声で言った。
「あいつらは?」
意味がわからない…。
答えず、
「笹川さんか?晴彦から連絡を受けて探しにきたんだ」
と告げるが、
「あいつらは?」
と、同じ質問を投げられただけだった。

笹川氏は鬼を探しにきたはずだから、鬼のことだろうか?
「娘さんは、ちゃんと家にいたよ」
と伝えてやった。それが懸念の元になっているのだろうから。
でも『こいつ』は、
「あいつらを見なかったか?」
と、また繰り返す。
…笹川氏じゃ…ないのか?
『あいつら』って、誰のことなんだ?


975 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:22:59 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 5/9

「笹川さん、だよな?」
もう1度確認する。
『やつ』は目を見開いて、少しだけ動揺を見せた。
「そ…う…かもしれない」
…おいおい(汗)。
「状況がわかるか?あんたは今日の明け方に自宅を飛び出して、ここまで運転してきたんだぜ?」
『笹川氏』は、きょろきょろと辺りを見回しながら、
「ここって…?どこだ?」
と正気を覗かせた。
ひとまず、安心。
「ここはI村の外れだよ。あんたが鬼を見たっていう家の中」
説明すると、笹川氏は顔を歪めて、
「マジで?げ〜。気持ちわる…」
と吐き捨てた。
…わかるけどさ(笑)。
「気味悪いのはこっちも同じだよ。それじゃあ、長居せずに帰ろうか」
と促すと、笹川氏も頷いたが、
「あ。やっぱり駄目だ」
と留まった。
「あいつらを皆殺しにしていかないと」

………。
とりあえず、鉈だけ取り上げておくかな…。


976 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:23:40 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 6/9

だけど、それは容易じゃなかった。
近づくと、笹川氏は右手を振り上げて威嚇する。
口調は普通なんだが、行動が伴っていない。体だけ、別のモノに支配されてるみたいだ。
鬼に憑依された?美耶の言葉が頭を巡る。
笹川氏が鬼と同化しているとすれば、皆殺しにする予定の『あいつら』って……。
……鬼に追い回されていたっていう、この家の住人たちのことじゃないのか?

「その人たちは、もうこの世にはいないよ」
俺自身が確かめた事実でもないが、そう断言しておいた。
笹川氏は、
「知ってる」
と答えた。
はあ?
ほんっとにわけわかんねえなあ。
「死んだ人間を殺しにいくわけ?」
と聞いてやると、頭をかきむしって、
「完全に消えるまで、何度でも首を取る」
と、物騒なことを言う。

…完全に消えてないのか。ここの住人は…。
そこまで恨む『笹川氏の中の鬼』って、どういう立場の存在なんだろう。


977 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:24:45 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 7/9

寺に来る相談の中で上位を占めるのは、憑きもの落とし、だ。家族や近しい間柄の人間が、突然、奇行に走る現象を、いまでも『狐憑き』と忌み嫌う風習がある。
と言っても、相談者も本当に怪異が原因だとは、ほとんどの場合、思ってない。精神的なつまずきが幻覚を見せるのだと、俺に説明してくる。
でも、俺はとりあえず、憑きものの存在を信じて祓う。俺が適当な気分でいると『憑かれた人間』は治らないからだ。

「笹川さん、あんた、とり憑かれてる自覚ある?」
だから、笹川氏にもそう振った。
笹川氏は首を大きく縦に振って、搾り出すように言った。
「なんとかしてくれないか」
声が掠れているのが気の毒だな…。

思い切って右腕に組みついた。鉈に固執しているのなら、取り上げたほうがいいだろう。
でも、俺の力でも、細身の笹川氏の腕を極められなかった。硬い。人間離れした筋肉で、俺はあっけなく床に振り払われた。
くそっ。力づくは無理か!

そのとき、笹川氏の後ろの階段から、美耶が顔を出した。
「お兄ちゃん、何してる…」

笹川氏が変化した…ように見えた。
体が盛り上がり、頭から2本のねじくれた角が生えた。
巨大化したせいで、右手の鉈が、軽々と扱えそうに見える。
そして、その鉈を、笹川氏は、美耶に向かって振り上げた。


978 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:25:37 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 8/9

俺は『鬼』の背中に組みついて、美耶と反対方向に引きずった。
重い。長くはコントロールできない。
無我夢中で鬼の体を壁に叩きつけた。笹川氏のダメージは考えなかった。
重量を増した肉体は、壁を突き破った。
笹川氏は2階から落下した。

美耶が悲鳴を上げて、笹川氏の落ちていった穴から身を乗り出した。
「暗くてよく見えない…」
焦燥感を顕わにして呟くと、今度は階段に舞い戻ろうとする。
その途中で俺の腕を強く引っ張った。
「ねえ、大丈夫?!笹川さんが落ちちゃったの、わかる?!」

ぼんやりと認識はある。
あの行動以外、どうしようもなかった。
「…笹川氏、生きてる…?」
思わず確認したが、美耶は『暗くて見えない』と言ったばかりだったな。
「わ、わかんない。でも、1階には」
言いかける美耶の言葉にかぶせて、聞き覚えのある声が、1階から飛び込んできた。
「えらいもん降ってきたんですけど、崇志兄の仕業?」


979 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/30(火) 10:26:30 ID:0OytpW5g0
鬼になる理由<崇志2> 9/9

俺より早く、美耶が晴彦に答える。
「お兄ちゃんがやったんだけど、お兄ちゃんもちょっとおかしいの。いま、1階に連れて行くから」
晴彦が、
「あー…。オレが行くよ。そこにいて」
と返す。
すぐに顔を覗かせた晴彦は、笑顔だった。
「笹川さん、相当暴れたんですか?今は戦意喪失って感じで座り込んでますけど」

…生きてたかあ。よかった…。

「凶器を取り上げようとしただけなんだが、手強くってさ。それに」
家が思ったよりボロかった、と言い訳すると、晴彦は壁の大穴を見て笑い、それから真顔で首を傾げた。
「凶器?」
美耶も口を揃える。
「笹川さん、何も持ってなかったよ」

……………。
やられた。
とり憑かれてたのは、俺のほうだったのか。
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