鬼になる理由<美耶3>

132 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY [sage]:2009/01/11(日) 00:15:21 ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 1/5

笹川さんの様子は思ったよりも重傷みたい。座ることもできずに、いまは地面に転がってる。
お兄ちゃんは、バツが悪いのか、
「晴彦が戻ってくるまで、ちょっとうろついてくる」
って、また家の中に入っていっちゃった。
「ごめんね。お兄ちゃんのせいで…」
と謝ると、笹川さんは、
「こっちこそご迷惑をかけました」
と、手を振りながら怒ってないことを表現してくれた。

「それにしても…子どもができたからかな…精神的に弱くなりましたねえ」
笹川さんの言葉が続く。
「たぶん、自分だけだったら、鬼が出てもビックリするぐらいで、こんな行動には出なかったと思うんですよ。夕べは子どものことを一番に考えちまいましたから」
頭を掻きながら視線を私から外す笹川さんは、たぶん、とてもいいお父さんなんだろうな…(笑)。
「そういうのって羨ましいです」
家族に一心に愛されてる赤ちゃんに比べて…。
「私は、肝心なときほど、誰にも相談できずに独りで解決してるから…」

高校のイジメのとき、結局、私を助けたのは私自身の力だった。
巫女としての力を感じるようになってからは、もっと、自分が別の世界に入り込んでしまっているような孤独感を感じてる。
ハルさんもお兄ちゃんも、人間として好きではあるけど、こういう気持ちを理解してもらえるかは…疑問…(苦笑)。

私の愚痴を聞いて、笹川さんは言った。
「お兄さんが俺を突き落としたときは、貴方のことを一番に考えていたと思いますよ。それが伝わっていないとしたら貴方にとっても不幸ですね」
だからこんな目に遭っても腹が立たないんです、と、笹川さんは、痛そうに顔を歪めながらも、笑顔で私のほうに寝返りを打った。


133 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY [sage]:2009/01/11(日) 00:16:01 ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 2/5

ちょっと涙腺の緩んだ私を見て、笹川さんは話題を変えてくれた。
「夕べ…じゃなくて、今朝の明け方だっけか。俺のマンションに現れた鬼は、顔はゴツかったけど、たぶん女だったと思うんです」
「女の鬼?」
意外な話に引き込まれた。
「そう。髪が長くて、…なんていうか…恨みの形相が男では出せない表情だったね」

I村に来る途中でお兄ちゃんと話していた『鬼の空想像』は、牛みたいな形をした牛鬼と呼ばれる妖怪だった。
幾種類かの動物が混ざり合った『キメラ』という形態で、『人間の女性』とはかけ離れた姿だったけど…。

「それって、本当に鬼だったんですか?幽霊とかじゃなくて?」
確認してみたら、笹川さんは、
「そういうフワフワした存在感じゃなかったんですよ。怨念の塊が物体化していたような…」
と、お兄ちゃんと同じような感想を持ってた。

目の前の半壊した家を見ながら、考えてみる。
笹川さんは、以前にこの家に来たときにとり憑かれてしまった。
何に?
この家のかつての住人を襲う『鬼』に。
その『鬼』は、未だにここに執着してる。
『この家』と『鬼』の間に、何があったんだろう?

「このまま帰って、またあの鬼たちを見ることにならないといいけどなあ…」
笹川さんが呟いた。
そうだね。原因がわからないままじゃ、また同じことが起こる気がする。


134 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY [sage]:2009/01/11(日) 00:16:37 ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 3/5

「笹川さんは、ここに住んでいた人たちの夢を見たこともあったんだよね?」
聞くと、
「ええ。あれもひどい夢だったなあ…。3人家族だったんですけどね」
と答えをくれる。
「そのご家族は、誰かに恨みを買うような人たちだったのか…わかる?」
と、重ねると、笹川さんは確信的に、
「それはないと思うよ。夢の中では、なんとなくだけど、彼らの人となりも感じられたんだ。普通の善良なサラリーマン家庭という感じだった」
と言った。

確執があったこの家の住人と鬼では、住人のほうが善良。じゃあ、鬼が悪?
鬼は何の咎もないここの人たちに、死後までつきまとっているの?
女の姿をした鬼。恨みの塊のような存在。
…鬼は、ただの悪?

「どこから話をつけていいのかわからないな…」
制御不能の意識が私の口を借りて喋った。
「霊異のモノとはいえ、理由なく仇を為すとは考えられないのだが…」


135 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY [sage]:2009/01/11(日) 00:17:33 ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 4/5

戻ってきたお兄ちゃんに、笹川さんとの会話を伝えた。
お兄ちゃんも、
「あ、そっか。またここまで探しにくるのは厄介だな」
って理解した。
「鬼を満足させる方法ってないのかな?」
私が尋ねると、笹川さんともに首を捻っていたけど、突然、
「もしかして!」
って大声を出して、廃墟の中に戻っていった。

出てきたときにお兄ちゃんが持っていたのは、ペンキの缶だった。
「中身は揮発して使えないんだけどさ」
と見せてくれた色は、I村の家々の窓枠を染めていた赤色。

私はもう1度廃屋を見た。赤に塗られている箇所は、ない。

「それ、何のためにこの家にあったんだろう…」
独り言で呟くと、笹川さんが、
「窓枠を塗るためだろ。そうすれば移民と同じになれるから」
って答えた。
お兄ちゃんが、
「先住民だから鬼に祟られたってことか?」
と次いだ。


136 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY [sage]:2009/01/11(日) 00:18:10 ID:oFT4vEhy0
鬼になる理由<美耶3> 5/5

先住民と鬼の間に、どんなトラブルがあったのか、私たちには図ることができない。
でも、窓枠を赤く塗ることで鬼の追跡をかわせるなら、試さなきゃ。

「ペンキの薄め液をどっかで調達してくるわ」
って言って、お兄ちゃんは村のほうに歩いていった。
私は、ついていくか迷ったけど、笹川さんを置いていけないから残った。

笹川さんの傍らに座りながら、さっきの言葉を撤回した。
「私1人だったら、何も解決できなかったね」
笹川さんは、
「きっと、大月もお兄さんもそう思ってるよ」
って慰めてくれた。

そして、
「ここを出るまで誰にも言わないでほしいんだけど」
と、重い言葉を私に伝えた。
「俺、たぶん脊髄のどこかをやられてる。下半身が認識できないんだ。家に戻っても、社会復帰できるかわからない」

………。
…悪夢だ……。
どうすれば、みんなが悲しまない結果になるの…?
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