鬼になる理由<美耶4>

<1>

ペンキを手に入れたハルさんから連絡があったらしくて、お兄ちゃんは笹川さんに、
「もうちょっとで帰れるからな」
と慰めてた。
笹川さんは黙って頷いてたけど、…本当はすぐにでも帰りたいんじゃないのかな…。

私は笹川さんと離れて、お兄ちゃんを手招きした。お兄ちゃんは訝(いぶか)しげな顔をしてたけど、笹川さんの容態を伝えると、
「…そっか…」
と黙り込んだ。
そして、携帯を取り出して『119』と押した。
あ。救急車呼ぶほうが、ハルさんを待ってるより早かったんだ。うっかりしてた。

…でも、電話は繋がらなかった。画面の隅には『圏外』の赤い文字。
「…なんでかなあ。さっき、晴彦からの通話は問題なく受け取れたのに」
お兄ちゃんはイラついた様子で吐き捨てる。
……………。
私…なら…、このわけのわからない『妨害』をはねのけることができないか…な?

お兄ちゃんから携帯受け取って、もう1度『119』と押してみた。
通じない。
でも、もう1度。
…やっぱり通じない。
でも!

何度も何度もリダイヤルを繰り返した。
鬼の声が聞こえてもかまわないって気分になってる。
なんで笹川さんが祟られなきゃいけないわけ?
なんでこんな嫌な気分を味わわなきゃいけないの?!

「美耶…、お前、かなりキレてない?」
お兄ちゃんが私から携帯を取り上げようとした。
私はお兄ちゃんの手を振り払って、
「通じるまでかけ続けるから、お兄ちゃんは手を出さないでっ!」
と牽制した。
お兄ちゃんは、
「奈良の件を思い出すなあ」
って苦笑交じりに言ってたけど、私はまだ冷静だよ。ちょっと怒ってるだけ。

「晴彦の話だと」
傍らで、お兄ちゃんが呟いてる。
「鬼の正体は、この村で暮らしていた母子だったみたいだ。生贄として奉納されたんだと」



まで押したときは、何ともなかった。

を押したとたんに、携帯から雷のような電気の衝撃が伝わってきて、私は卒倒したらしい。

<2>

夢の中で、泣きながら子どもを呼ぶお母さんの声が聞こえた。
一緒に、贄として、首から下を地面に埋められたんだよね。
だけど、一晩我慢すれば掘り起こしてもらえるはずだった。
お母さんは、子どもの体力を案じて、一生懸命声をかけ続けたの。
一緒に、生きて村に戻るために。

夜が白んできて、もうすぐ助かるって2人とも勇気づけられたの。
子どもの体力は限界に近かったけど、あと数時間の我慢だとお母さんから励まされて、頑張ったんだよね。
だけど…。
札返しが…起こった…。

磯神の稜線が薄く輝き始めた、『深夜』。
4人の若い青年が母子の元にやってきた。
母親は、掘り起こしてもらえるものと喜んで、4人を歓迎した。
4人は美麗な母親の肢体を土から引き上げると、情欲の限りを注いだ。

子どもは母親の蹂躙される様を見て泣き喚いた。
母は、子どもに痴態を見せまいとして、激しく抵抗した。
青年の一人が、鉈を手に、子どもに近づいた。
母親の強烈な悲鳴の中。

…子どもは、頭部を鉈で割られて絶命した。

<3>

言葉の通じない国へやってきて、孤独だった。
夫を亡くしてから、安住の地を求めて彷徨った。
やっと見つけた仲間の集落では、
「村のために架け橋となって欲しい」
と、意に染まない人たちとの親睦を強要された。

子どもと穏やかに暮らしたかっただけなのに。
贅沢なことを願ったわけではなかったと思うのに。

贄の最中、子どもと語り合った。
「この儀式が終わって掘り出されたら、ここを出ていこうね。お母さん、もう絶対にあなたをこんな目に遭わせないから」
子どもは嬉しそうに頷いた。
何度も何度も。

それが全部壊れてしまった。
どこにどんな感情を向けていいのかわからないほど、苦しい。
人間でいることを続けられないほど、苦しい。

<4>

私の意識が夢の中をあがいている間、私は、まったく無自覚なことをお兄ちゃんに伝えたらしい。
「鬼は2体いる。一角の鬼は子ども、双角の鬼は母だ」
「依代は持っていかれる。助からない」

目を覚ました私に、お兄ちゃんは確認してきた。
「依代っていうのは…笹川氏のことか…?」
私は泣きながら頷いた。

母親を襲った青年たちは、自分たちの悪事がばれるのを恐れて、最後は母親の頭にも鉈を突きたてた。
朝になって親子を掘り起こしにきた村人が見たのは、頭から凶悪な刃物を生やした2つの惨殺体だった。

恨みが深すぎる。
近づいて宥めることができないほど…。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -