声だけの存在

AもBも関係がない、けれど俺に深く関わる話だ。
俺はホテルで働いている。
元々は普通のフロントとして働いていたのだが、ナイトフロントをやっていたバイト君が辞めたために俺がナイトフロントをやるようになった。
フロント経験がある社員をナイトフロント専門にするという決定に現場から文句が出たが、昼の業務を理解している社員がナイトを専門にやることで、以前よりもスムーズに仕事が回る。
いつの間にか文句はなくなり、仮決定は本決定になり、俺は本格的にナイトを専門にやることになった。


仮眠の時間になる。
フロントバックで休む。
女の声がする。
呼ばれてるみたいだ。
フロントに出る。
・・・誰も居ない。
そんな事が昔からあった。
仮眠をしていると女の声が聞こえ、デリヘルか?お客様か?と起き上がる。
フロントに出ると誰も居ない。
女の声も消えている。
ナイト専門になってからもそれは続いたが、『そういうもの』の気配を探ろうとしてもよく解らない。
Aならば何か見えるかもしれないが、俺には見えない。
確信もない。
そのうち俺は声を無視するようになった。


この間の話だ。
フロントバック、マネージャーが遅くまで残って仕事をしていた。
眠れないと言って支配人が客室から降りてくる。(支配人は空室で寝泊まりしていた)

「絶対あの部屋なんか居るよ」

と俺に渡してきたのはバリアフリー和洋。
所謂、身障者用の部屋だ。

「支配人、おいくつですか?」

「うるせえよ」

オバケが怖い、というのは笑い話だ。
マネージャーが支配人をからかう。
俺も思わず笑いかけたが、フロントにお客様が来た。
そういえば未着のお客様が居たと俺は椅子から立ち上がり

「「はい」」

声が重なった。
マネージャーだ。
マネージャーはジェスチャーで『俺が行くよ』と俺に伝える。
マネージャーは1秒も経たずに戻ってきた。

「なあ、お前も聞いたよな」

ああ、と思った。
俺の勘違いじゃなかったのか、と。
その後、何だ何だと半ギレしながら騒ぐ支配人を俺が宥め、寝れないから一緒に寝てくれという言葉をマネージャーが全力で拒否り、なら俺はお前の家に泊まると支配人はマネージャーと出て行った。
結論を言うと、うちのフロントロビーには何かが居る。
俺が聞いた。
マネージャーが聞いた。
2人が同時に聞いた。
俺はそういうものが居れば解る性質だ。
だが、その声の主の姿は見えない。
気配もない。
けど、居る。
声だけの存在というのは、一体どんなものなんだろうかと時折考える。
今日はまだ、女の声は聞こえない。
聞こえてきたのは男の声。
泥酔したお客様だった。
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