自分霊

定時制の高校というのはいろんな人が通う。
夫と子供の面倒を見ながら、薬剤師免許を取るため学歴を得ようと頑張る人の良いおばさんもいれば、傷害でパクられたことを武勇伝のように話すDQNもいるし、授業が終わる度に

「今何々の授業が終わったよ。もう帰りたいよママ」

と母親に電話する大の男もいる。
まあ、とにかく濃い面子が揃ってたなあと思う。
俺自身働きながら学校に通う20歳過ぎの高校生なんてものをやっていたわけだが。


高1の春だった。
新入生の初々しさとは全くもって無縁な俺は、参っていた。
俺は自分が憑かれていたり、近くに居ると解る性質の人間で、そういった人間の大半がそうであるように、そういうものに対する自衛手段を持っていた。
しかしその時は状況が少々特殊で、俺は心底から参っていた。
左耳はかりかりという音を聞き続け、頭の中では説明しがたい音響が鳴りっぱなしだ。
体は常に鳥肌が立ち掛け、視界は不意に靄がかかったり何かが過ったりする。
こういった症状は近くに居るか、もしくは自分が憑かれている時に出る。
実際に憑かれてるという実感があった俺は、当然のように原因を探し、身構える。
どこだ。
いつ来る。
どこから来る。
初めは雑多なものの寄せ集めだったはずなのに。
起きている間は常にびくびくと周りを警戒し、また、眠りに落ちてからも悪夢を見る。
見つけさえすれば何とかできるのに。
俺の精神状態はどん底だった。
それでも俺は学校と仕事は休まなかった。
学校では担任から心配され、職場では何かヤバいことに首を突っ込んだのではないかと疑われた。(それでも心配してくれる人は居たが)
結果として、それが功を奏したのだろう。
良い加減お祓いでも受けなければ気が狂うと思い始めた頃、俺は教室でうとうとしていた。
授業が終わった夕暮れの教室。
仕事に出るまでのちょっとした空き時間。
バン、と音がした。
驚いた俺は眼を醒まして音の発生源にありったけの気迫を込めて眼を剥いた。
ついに来た。
上等だ。やってやる。とり殺せるならやってみろ。
しかし、そこに居たのは人間だった。
他人の視線なんか知らないとでも言うような(と言うか後に言う)ガチガチのパンクファッションに身を包んだ、隣のクラスで浮きまくりの女。
俺と同じく20歳前後だという話を聞いていたので覚えていたが、パンクやらゴスロリやらが苦手な俺は20歳にもなってそんな格好して、と余計に苦手意識を持っていた。
しかもやたらと目付きが悪いことで有名で、クラスの何人か(人の良いおばさんですらも)が

「なんだか怖いよね」

と言っていた女。
その女が大股で近付いて来る。
なにがなんだか訳が解らなくなった俺を尻目に、女は俺の机の前までやって来て、ぎ、と俺を睨んだ。
人を殺した事があるような眼だ。
混乱してたこともあってか、俺は本当に殺されると感じた。
そうしてヤバいと思った瞬間、ふわりと体が浮いたように感じた。
頭から体を吊るしていた糸がぷっつりと切れたような感覚。
妙な心地良さを感じて俺の意識は遠退く。
けれど、1秒も経たずに俺は眼を醒ました。
あの目付きの悪い女が、俺の肩を揺さぶったからだ。

「おい、大丈夫か」

とそいつは言った。
中途半端に覚醒した頭では何もかも訳が解らず、俺はただ

「は?は?」

と繰り返したのを覚えている。
これがAとの出会いだった。


後に聞いた所によると、俺は自分霊とでも言うようなものに憑かれていたらしい。
呪いが自分にかけられたと知って自己暗示に掛かるのと似たようなもので、謂わば自分の生き霊が自分に憑いているような状態らしい。
Aは俺がそんな状態に陥っていたのに気付いて、しょうがなく助けてくれたそうだ。
因みにあれから数年経つが、Aは多少マシになったものの未だにパンクファッションを続けている。
勿論Aはそんな格好で、主な客層が中年から初老のおじさんおばさんな俺行き付けの大衆食堂に行くわけだ。
今ではもう、すっかりと馴染んでしまっている。
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