こっくりさん@

『B』に関する話のネタがめちゃくちゃ少ないんで、今回から『B』を俺につきまとう変なモノの仮称から、関連する話が多いAとは別の霊感持ちの人の仮称に変更する。
旧Bに関する話はもうしないと思う。
基本的に見たら逃げるだけだから話せるようなネタがない。


定時制の学校に通う20歳過ぎの高校生なんてものをやっていた時代、仕事が縁で仲良くなったのがBだった。
地元では有名な空手道場の娘で、当時大学生をしていた彼女は(BはAよりも年下だ)A程ではないが結構な霊感を持っており、その体験談は中々興味深い。
今回する話も、結構な変わり種だ。


働きながら学校に通っていた学生時代、部活に参加する時間がなかった俺は、週に2回程ジムに通って汗を流していた。
ジムと言っても会費を払って参加するような上等なものではなく、自治体の運営する1時間いくらのやつだ。
Bと仲良くなってからは彼女もジム通いを始めた。
一緒にジムに行き、終わったらスポーツドリンク片手に少々話すのが、いつの間にか俺と彼女の習慣になっていた。(因みにAも誘ったが、ダルいと言って断られた)
この話を聞いたのも、ジム終わりの事だ。

「中学生の頃、幼馴染みに誘われて何度かこっくりさんをしました」

Bの幼馴染みはいわゆる『自称霊感少女』で

「あなたには悪い霊が憑いている」

などとクラスメイトに言ってオカルトの知識を披露したり、時にはタロット占いや交霊術を行っていた。
『本当に見える』Bは、幼馴染みの行動には何も言わず、たまに誘われる交霊術の集まりにも黙って参加した。
その幼馴染みはBに本当は霊感なんて持っていないことを告げていたが、Bは自分が霊感を持っていることを、彼女に黙っていた。

「とてもじゃないが言えませんよ・・・私じゃなくて幼馴染みに霊感があれば良かったのにと思った事もありました」

本当は霊感なんてないのに、自分には霊感があると周囲に吹聴していた幼馴染みにそのことを言うのは、やっぱり躊躇われたのだろう。
言われるがままに交霊会に参加し、何も現れないことを知りながら怖がるフリをしていたBは、次第に罪悪感を抱くようになった。
そんな時にこっくりさんに誘われ、同時にあることを頼まれる。

「私が10円玉を動かすから、Bもそれを手伝って。ね、Bにしか頼めないの。お願い」

今までも交霊会で自作自演をしていた幼馴染みは、ついにはこっくりさんでも仕込みをすることにしたらしい。
Bは断り切れず、ついには仕込みに協力することを承諾した。
まずは間隔を開けて机を2つ並べ、どこからか持ってきた鏡を2つの机にかかる橋のように渡す。
そしてその上に五十音と『はい』、『いいえ』、赤い鳥居が書かれた半紙を乗せるという幼馴染みの考えたやり方で、そのこっくりさんは行われた。
人の居ない放課後の教室に集まった面子は、幼馴染みの霊感に一切の疑念を持たない幼馴染みの信者2人と幼馴染本人、そしてB。

「・・・こっくりさん、こっくりさん。おいでください」

鳥居の上に置いた10円玉の上に全員が指を乗せ、幼馴染みがこっくりさんに呼び掛ける。

「こっくりさん、こっくりさん・・・」

びく、と10円玉が動く。
幼馴染みだ。
Bは小さく驚いた声を上げ、信者の一人は凄い、と漏らす。
幼馴染みは集中して疲れたように小さく息を吐く。
役者だ。

「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら返事をして下さい・・・」

10円玉が動き始めた。
対面に向かい合った幼馴染みの動きに合わせ、Bも10円玉を操作する。
10円玉は打ち合わせ通り、『はい』の所へ。
信者2人は息を飲んだ。
Bも一緒に息を飲む。
自作自演のこっくりさんは続く。
Bの幼馴染みは信者の2人に

「こっくりさんに訊きたいことを言って」

と促す。
信者2人は1回ずつ質問し、幼馴染みが10円玉を動かすことでその質問に答える。
安全。
手順を間違えなければこっくりさんは知りたいことに答えてくれる。
信者の2人はこっくりさんという10円玉を通して答えるBの幼馴染みの言葉に喜び、楽しそうに笑う。
信者2人の質問が終わり、次はBがこっくりさんに質問することになった。

「・・・この中で一番早く死ぬのは誰ですか」

Bが言った瞬間、こっくりさんへの質問の結果について笑いながら話していた信者2人の動きが止まり、幼馴染みがBを睨む。
勿論、打ち合わせ通りだ。
Bはこの後こっくりさんに憑かれたふりをし、それをBの幼馴染みが祓うという流れだ。
かく、と力が抜けたようにBは顔を俯かせた。
息を飲むような音。
Bはこっくりさんに憑かれたフリをして・・・10円玉が動いた。
Bは驚いた顔で俯かせた顎を上げ幼馴染みを見る。
幼馴染みもこちら見ていた。
Bと同じく驚いた顔で。
10円玉が動く。

【み】
【ん】
【な】

幼馴染みはBと10円玉に交互に視線を向ける。
Bは左右に首を振る。
私じゃない、のジェスチャー。
10円玉は鏡の上に置かれた半紙の上を動き続ける。

【す】
【ぐ】
【し】
【ぬ】

悲鳴が上がり、椅子が倒れた。
Bは一人取り残される。
10円玉に、人差し指を置いたまま。


・・・そこまで聞いて、息を飲んでいた俺にBは軽く笑いかけた。

「仕込みですよ」

「ぁ?」

間抜けな声が出てしまった、と思ったのを覚えている。

「だから、仕込みなんです。その時10円玉を動かしてたのは私です」

ふふふ、と笑ってBはスポーツドリンクを飲み干した。

「・・・役者だなあ。語るのも上手い」

「女は皆そうですよ。じゃなきゃ、女なんてやってられません」

俺もBの幼馴染みもその信者も、彼女の演技に見事騙されたことになる。

「それで、なんでまた」

「いい加減、幼馴染みにそういうことをやめて欲しかったから、ですね。けれど直接言うなんてことはできない。だからあんな事をしたんですよ。懲りてくれたら、ってね」

成程なあ、と俺は頷いた。

「男ばっかりの環境で育ちましたから、女友達なんて幼馴染み以外には居なかったんですよ。空手もやってましたし、小学生の頃は男女とさんざからかわれて今でもトラウマですしね。だから、幼稚園の頃から一緒にいてくれた幼馴染みが、尚更大切だったんです」

俺からするとBは良い意味で男らしいさっぱりとした性格をしているが、まるで男みたいだ、なんて感じることは全くない。
外見だって背は高いがファッションにも気を使っているし、化粧も上手い。
黒い口紅と黒いマニキュアと黒いペディキュアを塗りたくり、アホみたいに鋲を打ち込んだ黒い革ジャンを愛用しているゴスパン女、Aに見習わせたいくらいの美人だ。
でもそれは、男女とさんざんからかわれ続けた反動なのかもしれないなと考えた。

「それで、幼馴染みは懲りてくれた?」

「そうですね・・・話を続けますね」

Bは話を続ける。
俺は幾分リラックスして、その話に耳を傾けた。


3人が飛び出し、一人きりになった教室でBは嘆息した。
上手くいった。
これで幼馴染みが懲りてくれると良いんだが。
そんなことを思いながら、もしかしたらこのことで幼馴染みの信者から怖がられるかもという考えが頭を過ぎる。

「はあ」

とBは深く嘆息したそうだ。
これからの事を考えると憂鬱になる。
視線は自然と下を向き、見てしまった。
自分の指は、未だに10円玉から離れていない。
Bは愕然とした。
10円玉から指が離れていないことに気付かなかった。
途端背筋が粟立つ。
何か居る。
誰かが居る。
指は動かない。
いや、感覚がない。
それでも10円玉から指を離そうとした。
やっぱり指は動かない。
右肩から先が動かない。
足も動いてはくれない。
感覚がない。
自分の体じゃない。
10円玉も動かない。
けれどBは10円玉から目が離せなかった。
10円玉が、今にも動き出しそうで。
Bは思った。
まさか、本当に・・・こっくりさんに憑かれたのか?

「こっくりさん」

言葉が漏れた。
確認しないといけない。

「・・・こっくりさんですか?」

10円玉が動く。
動き始めた10円玉は答えを示す。
示された回答は、10円玉が止まった場所は・・・

【いいえ】

Bは混乱した。
こっくりさんじゃない。
なら、誰が。

「あっ」

そう声を上げたのを今でも忘れられないとBは言う。
居る。
この場にはもう一人居る。
目の前に居るじゃないか。
Bは、鏡の中の自分と目が合った。
10円玉を動かしているのはこいつだ。
10円玉を動かしているのは自分だ。
Bは鏡に映る自分を威圧するように気合いの声を上げた。
体からすとんと何かが落ちたような気がする。
しかし右手は10円玉から離れない。
もう一度気合いの声を上げた。
Bは左腕を振り上げ、鏡に向けて拳を叩き付けた。
鏡が割れた音は聞こえなかったそうだ。
砕け散った鏡から目を逸らし、椅子に座ったままのBは、気が抜けて暫く動けなかったという。
そのうちBの気合いか教室から逃げ出した3人の叫び声か、どちらかを聞き付けた教師がやってきて、Bは酷く叱られたそうだ。

こっくりさんAへ続く
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