こっくりさんA

「凄いな」

Bの話を聞き終えた俺は初めにそう呟いた。
話の初めを聞いた時は、こっくりさんを呼ぶふりをしたらホントにこっくりさんが来てしまったんじゃないかと予想していたが、こっくりさんに憑かれたふりをして信者を騙す予定だった幼馴染みを騙したら、いつの間にか自分が、というのは予想外だったし、自分が体験した、Aの言う所の『自己霊に憑かれる』というのにダブるような気がしたからだ。

「自分に憑かれるっていうのなら、俺も経験があるなあ。体が動かないって事はなかったけど」

「自分に憑かれる?」

「いや、分かんないけどな。自己霊だったか自分霊って言って、自分の生き霊が自分に憑くってことがあるみたいで。Bが今話したのも、それに近いのかと思ったから」

「なるほど」

Bは自分に憑かれるという考えがなかったらしく、真剣な顔で頷いた。

「実はあの一件以来大きい鏡が苦手で。今でも大きい鏡を見る時は覚悟してましたが・・・自分の生き霊、ですか」

「覚悟?」

「鏡を割る覚悟ですよ、正拳突きで」

俺は正拳で鏡を割る胴着姿のBを想像し、ちょっと笑ってしまった。
Bもおどけるような笑みを浮かべ、綺麗な眉をくい、と上げてみせる。

「・・・それで、幼馴染みは懲りてくれた?」

「それは・・・」

Bの幼馴染みは結局懲りたりはしなかったらしい。
Bは教師に何か言われても、一人でやったと答えたそうだが、Bの幼馴染みは

「Bは実は霊感が強く、悪霊が憑いていて危険。あのこっくりさんもBが滅茶苦茶にした。Bには近付かない方が良い」

と吹聴して回ったそうだ。
なかなか当たってるじゃないか、とBはおかしくなったと言う。
自分には確かに霊感があり、悪霊は憑いていないがあのこっくりさんを滅茶苦茶にしたのも自分だ、と。
Bは何も言い返さずに幼馴染みと付き合うのを止めた。
幼馴染みの信者から怖がられたり徹底的に無視されたりしたが

「かえってそれが良かったかもしれないですね。他の人にまで無視されたりしないように、人当たり良くしようと頑張りましたから。それでもやっぱり、寂しいですが」

とのこと。
さっぱりしてるなあと凄く感心すると同時に暴露してやりゃ良いのにと思った俺は、器が小さいのだろうか。


事の顛末を全て聞いた俺は、ふと1つ聞き忘れていることに気付いた。

「10円玉はどうした?」

「ああ、言ってませんでしたね」

Bは財布から10円玉を取り出した。
所謂ギザ十のそれを俺に見せる。
まさか。

「捨てなかったのか」

「ええ。こっくりさんでは使った10円玉はさっさと使うのがルールですが、あれはこっくりさんなんかじゃありませんし。逆に捨てたら祟られそうだと思って持ってましたが・・・さっきの話を聞いて手離さなくて良かったと思いましたよ」

俺は首を傾げる。

「すまん、さっきの話って?」

「ほら、自己霊の話ですよ。この10円玉を手離すというのは、自分を手離すのに近い意味があるのかなって今思ったんです」

そう言って彼女は財布にギザ十をしまった。
その仕草はいかにも大事なものを扱うそれだった。
後日、彼女は地元で大きな神社からお守りを買ってきて、それに10円玉を入れた。
Bはきっと今も、あの時に使われた10円玉を大切に持っているのだろう。
仕事で10円玉をお客様に渡したりする時、俺はたまにそんな事を考える。
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