リゾートバイトB

異様に臭い。生ゴミと下水の匂いが入り混じったような感じだった。
(なんだ?なんだなんだなんだ?)
そう思って当たりを見回す。

その時、俺の目に飛び込んできたのは、突き当たり踊り場の角に
大量に積み重ねられた飯だった。
まさにそれが異臭の元となっていて、何故気づかなかったのかってくらいに
蝿が飛びかっていた。
そして俺は、半狂乱の中、もうひとつあることを発見してしまう。

2階の突き当たりのドアの淵には、ベニヤ板みたいなのが無数の釘で打ち付けられていて、
その上から大量のお札が貼られていたんだ。
さらに、打ち付けた釘に、なんか細長いロープが巻きつけられてて、くもの巣みたいになってた。

俺、正直お札を見たのは初めてだった。
だからあれがお札だったと言い切れる自信もないんだが、大量のステッカーでもないだろうと思うんだ。

明らかに、なにか閉じ込めてますっていう雰囲気全開だった。

俺はそこで初めて、自分のしたことは間違いだったんだと思った。

「帰ろう」
そう思って踵を返して行こうとしたとき、突然背後から

「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」
という音がしたんだ。

ドアの向こう側で、なにか引っかいているような音だった。

そしてその後に、
「ひゅー・・ひゅっひゅー」
不規則な呼吸音が聞こえてきた。

このときは本当に心臓が止まるかとおもった。

(そこに誰かいるの?誰?誰なの?)←俺の心の中

あの時の俺は、ホラー映画の脇役の演技を遥かに逸脱していたんじゃないかと思う。


そのまま後ろを見ずに行けばいいんだけど、あれって実際できないぞ。
そのまま行く勇気もなければ、振り返る勇気もないんだ。
そこに立ちすくむしかできかった。

眼球だけがキョロキョロ動いて、冷や汗で背中はビッショリだった。

その間も
「ガリガリガリガリガリガリ」
「ひゅー・・ひゅっひゅー」
って音は続き、緊張で硬くなった俺の脚をどうにか動かそうと必死になった。

すると背後から聞こえていた音が一瞬やんで、シンっとなったんだ。
ほんとに一瞬だった。瞬きする間もなかったくらい。

すぐに、「バンっ!」って聞こえて
「ガリガリガリガリガリガリ」って始まった。

信じられなかったんだけど、それはおれの頭の真上、天井裏聞こえてきたんだ。
さっきまでドアの向こう側で鳴っていたはずなのに、ソレが一瞬で頭上に移動したんだ。

足がブルブル震えだして、もうどうにもできないと思った。

心の中で、助けてって何度も叫んだ。

そんな中、本当にこれも一瞬なんだけど、視界の片隅に動くものが見えた。
あのときの俺は動くものすべてが恐怖で、見ようか見まいかかなり躊躇したんだが、
意を決して目をやると、それはAとBだった。
下から何か叫びながら手招きしている。

そこでやっとAとBの声が聞こえてきた。
A「おい!早く降りてこい!!」
B「大丈夫か?」

この瞬間一気に体が自由になり、我に返った俺は一目散に階段を駆け下りた。
あとで二人に聞いたんだが、俺はこの時目を瞑ったまま、
一段抜かししながらものすごい勢いで降りてきたらしい。

駆け下りた俺は、とにかく安全な場所に行きたくて、そのままAとBの横を通りすぎ
部屋に走っていったらしい。この辺はあまり記憶がない。
恐怖の記憶で埋め尽くされてるからかな。

部屋に戻ってしばらくするとAとBが戻ってきた。
A「おい、大丈夫か?」

B「なにがあったんだ?あそこになにかあったのか?」

答えられなかった。というか、耳にあの音たちが残っていて、思い出すのが怖かった。

するとAが慎重な面持ちで、こう聞いてきた。
A「お前、上で何食ってたんだ?」

質問の意味がわからず聞き返した。

するとAはとんでもないことを言い出した。
A「お前さ、上についてすぐしゃがみこんだろ?俺とBで何してんだろって目を凝らしてたんだけど、
なにかを必死に食ってたぞ。というか、口に詰め込んでた。」

B「うん・・。しかもさ、それ・・」

AとBは揃って俺の胸元を見つめる。

なにかと思って自分の胸元を見ると、大量の汚物がくっついていた。
そこから、食物の腐ったような匂いがぷんぷんして、俺は一目散にトイレに駆け込み、胃袋の中身を全部吐き出した。

なにが起きているのかわからなかった。
俺は上に行ってからの記憶はあるし、あの恐怖の体験も鮮明に覚えている。
ただの一度もしゃがみこんでいないし、ましてやあの腐った残飯を口に入れるはずがない。

それなのに、確かに俺の服には腐った残飯がこびりついていて、よく見れば手にも、
ソレを掴んだ形跡があった。
気が狂いそうになった。

俺を心配して見に来たAとBは、
A「何があったのか話してくれないか?ちょっとお前尋常じゃない。」
と言った。

俺は恐怖に負けそうになりながらも、一人で抱え込むよりはいくらかましだと思い、
さっき自分が階段の突き当たりで体験したことをひとつひとつ話した。

AとBは、何度も頷きながら真剣に話を聞いていた。

二人が見た俺の姿と、俺自身が体験した話が完全に食い違っていても、
最後までちゃんと聞いてくれたんだ。それだけで、安心感に包まれて泣きそうになった。
少しホッとしていると、足がヒリヒリすることに気づいた。
なんだ?と思って見てみると、細かい切り傷が足の裏や膝に大量にあった。

不思議におもって目を凝らすと、なにやら細かいプラスチックの破片ようなものが
所々に付着していることに気づいた。
赤いものと、ちょっと黒みのかかった白いものがあった。

俺がマジマジと見ていると、
B「何それ?」
といってBはその破片を手にとって眺めた。

途端、
「ひっ」といってそれを床に投げ出した。

その動作につられてAと俺も体がビクってなる。

A「なんなんだよ?」

B「それ、よく見てみろよ」

A「なんだよ?言えよ恐いから!」

B「つ、爪じゃないか?」

瞬間、三人共完全に固まった。
AB俺「・・・」


俺はそのとき、ものすごい恐怖のそばで、何故か冷静にさっきまでの音を思い返していた。
(ああ、あれ爪で引っかいてた音なんだ・・)

どうしてそう思ったかわからない。
だけど、思い返してみれば繋がらないこともないんだ。

階段を上るときに鳴っていた「パキパキ」っていう音も、何かを踏みつけていた感触も、床に大量に散らばった爪のせいだったんじゃないか?って。

そしてその爪は、壁の向こうから必死に引っかいている何かのものなんじゃないか?って。

きっと、膝をついて残飯を食ったとき、恐怖のせいで階段を無茶に駆け下りたとき、
床に散らばる爪の破片のせいでケガをしたんだろう。

でも、そんなことはもうどうでもいい。

確かなことは、ここにはもういられないってことだった。

俺はAとBに言った。
俺「このまま働けるはずがない」

A「わかってる」

B「俺もそう思ってた」

俺「明日、女将さんに言おう」

A「言っていくのか?」

俺「仕方ないよ。世話になったのは事実だし、謝らなきゃいけないことだ」

B「でも、今回のことで女将さん怪しさナンバーワンだよ?
もしあそこに行ったって言ったらどんな顔するのか俺見たくない」

俺「バカ。言うはずないだろ。普通にやめるんだよ。」

A「うん、そっちのほうがいいな」

そんなこんなで、俺たちはその晩のうちに荷物をまとめ、
男なのにむさくるしくて申し訳ないが、あまりの恐怖のため、
布団を2枚くっつけてそこに3人で無理やり寝た。
めざしのように寄り添って寝た。

誰一人、寝息を立てるやつはいなかったけど。

そうして明日を迎えることになるんだ。

リゾートバイトCへ続く
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