呪いの人形A

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俺「お、あったあった。「綾」かぁ…。いやぁ、悪かったなぁ。こんな可愛い名前があったのに」
綾を座らせながら謝り、俺は飲み続ける。

俺「出身はどこなのかな?育ちは良さそうに見えるけど――」

返事が返ってくる訳でもなく、また、たとえ返事をしていても霊感の無い自分にはさっぱりだが、俺は話し続けた。

俺「俺は生まれも育ちもこっちで、正真正銘の都会っ子なんだけど…何故かよく田舎者扱いされるんだよねぇ」

相手からはまったく無反応でも苦になることは無い。
何を隠そう、俺は喋り上戸だ。
そしてこうして話せば話すほど、テンションは上がってくる。

あたりめをムシャムシャと食べながら、綾を前にして、俺は家族、友人、大学のことなど、聞かれもしないことを延々と話していく。

すると当然(?)、話題は女性関係というか、愛だの何だのという話になり…
この辺から酒の進み具合も加速してきた俺は、心の内をさらけ出しはじめる。

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俺「…やっぱりさ、誰でも愛されたい気持ちはあると思うんだよ。俺だってそうなんだよ。
彼女のことを一方的に好きでいたって、それだけじゃ満たされないんだよ。
ただ相手を好きでいることが幸せ〜なんてたまに言う奴が居るけどさ、俺には信じらんないのよ。
いや、勿論そういうのもあるかも知れないけどな?でもやっぱ分かんねぇよ。

…綾だってそうだろ?
勝手に決め付けちゃ悪いかもだけどさ。愛されたいって思っていたと思うんだよ。

人形売り場でさ、待っていたんだよな。
自分を大切にしてくれるご主人さまをさ。
一緒に売り場にいた友達とかとさ、話をしていたんじゃないか?
どんな家に行きたい?どんな人に会いたい?とかって。
なかには、お金持ちの家に行きたいとか言ってた友達もいたかもな。
でも、あれだよな。結局、自分をちゃんと大切にしてくれる人のところにいけたら、一番良いんだよな。

それで、ある日綾は買われてさ。
友達に別れを告げて、旅立ったんだよな。
寂しかっただろうけど、ワクワクしながらさ。
どんな家に、どんな人のもとに行くのかしら、って。

で、その家に着いて、綾です、よろしくお願いします、って言ったら…なぁ?
どこの大バカヤロウだよなぁ?

気持ち悪いもの、無理矢理飲まされてさ。
しかも長いことずっと、だろ?
絶望して、辛かっただろうな…。
こんな筈じゃなかったって、思ったよな。

俺はもう、何か…悲しいし、悔しいよ。
何でそんな奴がいるんだよな。何でそんなことできるんだよな…。

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恨みだとか呪いだとか、そんなこと知らないよな。
知らなくて良いんだよ、そんなこと。
綾は、愛されるために生まれたんだよ。誰だってそうなんだよ。

世の中には楽しいことがいっぱいあるんだよ。
綺麗なものだって、美味しいものだって、いっぱいあるんだよ。
そういうことを、ちゃんと…さ…
俺だって…もっと…まだ…」

俺は話しながら泣いていた。涙が止まらなかった。
色々な感情が溢れてきて、俺は泣きながら…綾にずっと語りかけていた。

…そして、いつの間にかテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。

――
翌日目を覚ますと、少し頭が痛かった。
でもまぁ、ひどい二日酔いということもなく、テーブルに伏せていたので腕の痺れの方が気になる程度だった。

綾はというと、座椅子に座ったままこちらをジッと見ていた。
ちゃんと寝たのかどうかは分からない。
きちんと布団に寝かせてあげれば良かったなと、ちょっと反省する。

一晩だけの約束だったし、婆さんのところに連れていかないとなぁと思い、テーブルの上を片付けながら俺はあることに気付く。

オレンジジュースが空だ。

まぁ、きっと俺が酔い覚ましに飲んだのだろうけど…俺は綾に微笑みかけ、頭を撫でてやった。

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――
正午過ぎになって、ガラガラと引き戸を開ける音と共に「こんちわー」という、いつも通りの挨拶が聞こえてくる。
どうやら何事もなく、人形共々帰ってきたようだ。

私「あいよ、入っておいで」

そう声を掛けてしばらく待ち…座敷に上がってきた北上明雄を見て、少し驚く。
…いや、正確にはその腕に抱かれた人形を見て、だ。

北上「やぁ、約束どおり連れてきたよ」
これは一体…?

北上「ん?どうかした?ちゃんと連れてきたけど」
人形を横に置き、座布団に座りながら北上が聞いてくる。

私「誰か来たのかい?」
北上「へ?」
私「昨日の晩、誰か一緒だったかい?…例えば、舞とか」
北上「いや、俺と綾だけだけど…」
私「綾?」
誰のことだろう。その人だろうか、上手くやったのは。

北上「綾は綾だよ。なぁ?」
そう言って、北上は人形に話しかける。
まさか…

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私「その子の名前、綾って言うのかい」
北上「そうだけど…。あれ、知らなかった?」

初耳だ。舞からも聞いていない。

北上「だってほら、ここに書いて…」
そういって北上は人形の着物の裾を見せてくる。
が…
北上「あれ?無い…」

それはそうだろう。
着物に書いてあるなら、私だって気付いている。

北上「おかしいなぁ…。でも、綾って言うんだよ。この子」
私「まぁ、そうなのだろうね」
北上「とっても良い子なんだぜ?…本当にさ」
私「うんうん」
北上「俺が一晩一緒に居ても、平気だったんだよ。何の問題もなかったんだ」
私「そうみたいだね」

…彼が何を言わんとしているかが分かる。

北上「あの、だからさ…、処分するとか、考え直してくれないか?頼むよ、この通り…!」

そう言って、北上は深々と頭を下げる。

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北上「どうしても、って言うならさ、俺が引き取るから。俺はほら、大丈夫なんだよ」

少し涙目で訴えてくる北上。
何とまぁ…やれやれだ。

私「あんたさ…」
北上「ダメとか言わないでくれ、頼むよ」

私「もう、処分する必要はないだろう?」

北上「…へ?」
頭を上げ、キョトンとした顔をする。

私「口元」
北上「口元?」
そう言って彼は、自分の口元に手をやる。

私「あんたのじゃないよ。その子の口元だよ」
天然ってやつかい。こいつは。
北上「あ…そうか。えっと…あ!」

驚きの声を上げる北上。
どちらかというと、私はその驚きに驚いてしまう。

北上「おおお!綺麗になってる!」

そう。人形の口元から赤いシミが消え、綺麗さっぱりになっているのだ。
座敷に上がってきたときは、一瞬、別の人形かと思ったくらいに。

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私「…何でお前さんが気付いてないのさ」

北上「いやぁ、落ちないなぁと思ってからは、全然気にしてなかったから…」
私「落ちない?」
北上「でも結局落ちたんだなぁ。アルカリ性の力かなぁ…」
私「アルカリ性?…ちょっと詳しく聞かせてくれるかい」

そう言って私は、北上から昨晩、彼と人形…綾がどうやってすごしていたかを聞く。

…それで理解できた。

まったく、たいしたものだ。
彼は見事にやってのけたのだ。
――霊感のない身で、"完璧な除霊"というものを。

北上「あぁ、それとさ、何か夢を見たよ」
私「夢?どんな?」
北上「いやぁ、それが…まったく思い出せないんだよな」
私「…」
北上「だけど、何か良い夢だったんだよ。それは確か何だけど…」
私「良い夢って分かっているなら、思い出さなくても良いじゃないの」
北上「…んまぁ、そっか」

…単純な男だ。

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北上「あ、それでそうなると、綾はこの後…?」
私「こっちで預かっておくよ。夏美の部屋に置いていくつもりさ」
北上「夏美さん?…あぁ、そうか」

今、夏美の部屋には――佳澄がいる。
元々彼が人形を持ち帰らなかった場合、私は"夏美と佳澄"に任せるつもりだった。
ここに人形を持ってきた舞も、きっとそのつもりだったと思う。
夏美は人形遊びが大好きだったし、佳澄も友達を欲しがっているようだったから。

北上「きっと良いお友達になれるぞ、綾」
そう言いながら、人形の頭を撫でる北上。
まるで親のようだ。
実際、彼に娘が出来たらこのように可愛がるのだろう。

…もっとも、小さい子を晩酌に付き合わせるのはどうかと思うが。

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それからしばらくして、「良い子にしているんだぞ」と言って帰っていく北上。
それを見送る、私と綾。

私「…そんなに寂しい顔しなくても、またすぐに来るよ」
そんな雰囲気も出すようになった綾を、優しく撫でてやる。

私「あれは暇人でね。用もないのにフラフラと来てくれるんだよ」
この子のこともあるので、これからは更に頻度が高くなるかも知れない。

私「昨日の夜は楽しかったみたいだね。一緒に良い夢も見られたみたいで…よかったねぇ」
そう言いながら綾を抱きかかえた私は、夏美の部屋へと行く。

部屋の中、ベッドの上にちょこんと座っている佳澄。
その隣に、綾を座らせる。

私「仲良くね、佳澄。…夏美もよろしくね」

私は1人呟き、部屋を出る。

久しぶりに、幸せな…優しい気持ちで、胸が一杯だった。
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